科学的に明らかになっていく森林の多面的機能
――森林資源研究センターの活動について教えてください。
王子ホールディングス株式会社
イノベーション推進本部
森林資源研究センター
センター長
【友田】王子グループは2020年に策定した環境に関する長期ビジョン「環境ビジョン2050」の新たなマイルストーンとして、2025年5月に2040年度を目標達成年度とする「環境行動目標2040」を定めました。カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブ、サーキュラーエコノミーの取り組みをさらに進めていく中で、イノベーション推進本部では、化石資源を原料とするプラスチックから紙製品への転換や、マテリアルリサイクルを目指すサステナブルパッケージ、木質由来のバイオエタノールやバイオマスプラスチックといった木質バイオマスビジネス、また、森林の多面的機能を数値化し、価値を高める研究などに取り組んでいます。
木質バイオマスビジネスにおいては、鳥取県にある王子製紙・米子工場内に、木質由来の糖液・エタノールのパイロットプラントを立ち上げ、実証実験を進めています。糖液・エタノールの製造に一般的に使用されるトウモロコシやサトウキビと異なり、木は非可食であることから、食糧と競合しません。また、最先端の半導体製造向けのバイオマスレジスト、動物用の関節炎治療薬として承認申請中の木質由来の医薬品など、将来的な事業化を見据えた複数の取り組みが進行しています。
――事業活動が時代のニーズとも合致してきたのですね。
【三浦】カーボンニュートラルやネイチャーポジティブといった言葉が広く浸透する中で、これまでなかなか注目されてこなかった森林の価値を「見える化」することへの理解が得やすくなっていると感じます。木材生産だけではない、森林の多面的な機能を科学的に裏付け、社会へと発信していくのが私たちの大きな役割です。適切に管理された森林から生まれた製品を消費者が購入し、その収益がさらに森林を健やかに育む力へと変わっていく、そんな豊かな森の恵みを将来にわたり社会が享受し続けられるように、地域や社会全体で取り組んでいくことが重要だと考えています。
例えば農業では、肥料の過剰な使用が二酸化炭素の約300倍の温室効果ガスを持つといわれている一酸化窒素を排出するとして、問題視されています。対して日本の森林は、人間が肥料を与えることはほとんどありませんが、二酸化炭素、水、光という自然のサイクルだけで長い年月をかけて成長し続けられ、健全に管理・育成すれば再生可能なとてもサステナブルな存在です。
【友田】「木の個性」を新たな価値として取り出すアロマオイルの試作も進めています。セルロースなどの紙の原料としては利用されない、木材のわずか1%の抽出成分に着目したものです。このノベルティ(画像)は、自社の社有林に生えるオオシラビソの枝葉から抽出しました。単に良い香りというだけではなく、将来的にはストレス低減や作業効率の向上といった「人への良い影響」を定量的に解明し、オフィス空間などでも活用してもらうことをイメージしています。
適切な管理が森と光のコラボレーションを生む
――自然環境の変化をどう感じていますか。
王子ホールディングス株式会社
イノベーション推進本部
森林資源研究センター
上級研究員
【三浦】深刻な自然災害の頻発もきっかけとなって、森林の土砂流出を食い止める機能や、雨水を土壌に浸透させてゆっくり川へ流す水源涵養機能などが注目されています。私は毎月各地の社有林を訪れ、年間を通じてどのような成分が森から海へ流れていくかといったことを調査しています。季節ごとに森林は異なる表情で迎え入れてくれて、厳しい冬の寒さの中でも木々がたくましく育っているのを見ると、改めて「すごいな」と驚かされます。一方で、温暖化の影響等で「ナラ枯れ」の被害が本州から北海道へと拡大しているなど、以前とは異なる森林の問題も発生しています。ナラは家具や建材、ウイスキーの熟成樽にも使われる素材ですから、産業への影響も懸念されています。こういったこともリモートセンシングなどを活用していち早く検知、対策ができるようにしたいと思っています。
――「環境フォト・コンテスト2026」入賞作品について、お願いします。
【友田】優秀賞「夏の森の秘密」、そして佳作2点のように、「森と光」の組み合わせって、とてもいいですよね。木は光合成をするために樹幹を広げますから、自然のままだと地面まで光が入りにくくなり、森林の中は暗い状態になります。人間が適切に間伐して維持管理されている森林には光が入り、「森と光のきれいなコラボレーション」が見えやすくなるのです。そういう点も、写真や、実際に目にした風景から感じてもらえるとうれしいですね。
【三浦】春夏秋冬、さまざまに様子を変える森はそれだけでワクワクします。今回、環境フォト・コンテストで受賞された3名の方々を含め、写真をご応募いただいた方々も、写真を撮るために、実際に森に足を運ばれたと思います。まずは森に行って、五感でその素晴らしさを体感していただき、森のファンを増やしたいですね。当社の先人たちが100年以上かけて守ってきた歴史を引き継ぎ、未来に森林をつないでいくことに、大きな誇りを感じています。
●「環境フォト・コンテスト2026」入賞作品
●募集テーマ:森の営み