スピード感を持って推進する「3本柱」の社会実装
三菱自動車がモビリティビジネス本部を立ち上げたのは2020年4月。6年近くが経った。この短期間に事業化まで実現した分野もあり、そのスピード感が三菱自動車のモビリティビジネスを際立たせている。
その背景には、同社が掲げる「モビリティの可能性を追求し、活力ある社会をつくる」という企業ビジョンがある。そのビジョンを実現する方法として、環境・社会・ガバナンスに全力で取り組み、社会の持続可能な発展に貢献することをミッションとしているのだ。
そもそも、三菱自動車のモビリティビジネスとは何を意味するのか。同社の岩本和明氏は「商品企画、開発、生産、営業、アフターセールスなどの既存のビジネスではカバーしきれない、すべての領域を担います。当社のモビリティビジネスの柱は、データ/リモートコントロール/バッテリーのリパーパスの3点に集約されます」と語る。
ここでいう「データ」とは、同社がこれまで積み上げてきた電動車(EV・PHEV)の走行記録に加え、エネルギーの出入りを司る充放電データをも指している。「リモートコントロール」とはコネクティッド機能を使った、外部から車への遠隔操作の仕組みのことで、遠隔で車両状態の確認も可能となる。「リパーパス」とは再利用の意味で、電動車で使った後にまだ性能を残すリチウムイオンバッテリーの二次利用を指す。
強みは電動車の知見とパートナー企業との連携
さまざまなモビリティビジネスに迅速に取り組む三菱自動車の強みについて、岩本氏はこう分析する。
「一つは、当社が2009年に電気自動車(EV)を発売し、豊富な知見を持つこと。加えて、三菱グループをはじめとする他社とのネットワークにより、社外とのパートナーシップを獲得しやすい環境にあることが挙げられます。また、IT技術、特にクラウド関連のツールがそろってきたおかげで、専門部署に頼らずにサービスの実装ができるようになった効果も大きいと思います」
三菱自動車工業株式会社 執行役員 モビリティビジネス本部 本部長
1963年岡山県生まれ。東京大学工学部卒業後、1986年に日産自動車入社。北米や欧州への赴任、環境戦略、プログラムダイレクターなどを歴任し、一貫して車両開発と戦略の枢要を担う。2016年に三菱自動車工業へ入社。商品戦略本部副本部長、執行役員(グローバルリスク担当)を経て、2019年より商品戦略本部長。2020年4月より現職として、次世代のモビリティビジネスを牽引している。
三菱自動車は、2009年にアイ・ミーブを発売した。これは世界初の量産市販EVである。さっそくEVの利用状況を把握する実証実験を行い、走行データや充放電データをはじめ、他社に先駆けてさまざまな情報を手に入れた。その4年後には、アウトランダーPHEVを売り出す。プラグインハイブリッドEV(PHEV)の先駆的な一台だ。こうした電動車での積み重ねが、コネクティッドやデータビジネスにつながっていく。まさに、モビリティビジネスのバックボーンだ。
また、三菱自動車はパートナー企業との連携にも極めて積極的だ。同社の提携先は、エネルギー関連から物流、異業種のサービス業など多岐にわたり、多様な業態の企業との協業が次々と生まれている。こうした連携を加速させる上では、三菱商事の存在も大きい。あらゆる産業にネットワークを持ち、市場動向に精通している商社とタッグを組むことで、多角的な業務提携・協業を形にしている。たとえば、欧州で多数の自動車メーカーとの連携実績を有する先進的なサービスの日本市場への導入を目指し、英Kaluza社とMCリテールエナジー社と共に国内初の電動車のコネクティッド技術を活用したスマート充電サービス(※1)の商用化を実現したことは、その象徴的な成果だ。
※1 スマートフォンのアプリから、希望の充電スケジュールをあらかじめ設定することで、車の使用開始時間までに最適なタイミングで充電するサービス
「動く蓄電池」がもたらす新たな社会価値
電動車がエンジン車と決定的に違うのは、大容量のバッテリーを積み、「動く蓄電池」として機能する点だ。十分な電力を携えて移動することにより、情報通信に不可欠な電気を存分に使うことができる。三菱自動車はこの特性を活かし、移動手段以上の価値を提供している。
たとえば、三菱自動車は2011年から軽商用バンと軽トラック(※2)のEVを販売しており、長年にわたって膨大な走行データを蓄積してきた強みを持つ。単なるシミュレーション上の数字ではなく、実際に現場で運用された車両のリアルなデータに基づき、配送業界などが求める脱炭素化の取り組みに対し、EVがいかに貢献できるかを具体的に示すことができる。
こうした車両から得られる知見は、単なる移動の効率化に留まらず、電力インフラそのものの最適化へとつながっていく。
「EV が走行した距離やエリア、充電履歴などを分析することで最適な充電拠点を把握し、稼働率の高い充電設備の設置に役立ちます。社会基盤の整備の効率を良くして、お客様には電動車利用における安心をお届けすることができます」(岩本氏、以下同)
※2 2011年にミニキャブ・ミーブ バン(現在のミニキャブEV)、2013年にミニキャブ・ミーブ トラックを発売。ミニキャブ・ミーブ トラックは2016年に生産終了。
車は「電気を売る」時代へ。電力不足も防ぐ新技術
電動車は電力の需給バランスを調整する役割も期待されている。電力需要に合わせて充電時間を制御する仕組み「V1G(ヴィークル・トゥ・グリッド・ワン・ウェイ)」を日本で事業化したのは、三菱自動車が最初だ。
「真夏や真冬など、電力需要の多い季節に送電容量を超える懸念が伝えられています。需要の少ない、すなわち電気代の安い時間帯を選んでEVに充電すれば、EV利用者は経済的メリットが得られ、電力事業者は余計な設備投資を避けられますので、一挙両得です」
さらに、この仕組みを双方向へと進化させたのが「V2G(ヴィークル・トゥ・グリッド)」だ。V1Gが「安い時に充電する」という一段階のメリットだったのに対し、V2Gは電力需要が逼迫する時間帯に、車に貯めた電気を電力系統に戻すことができる。
これにより、社会全体では電力負荷のさらなる平準化が実現し、個人にとっては、安く買った電気を高く売るような形で、V1G以上の大きな経済的対価を享受できる可能性が広がる。
自治体と連携し「街の防災インフラ」へ
「動く蓄電池」の活用は、災害対応においても存在感を示す。三菱自動車は2011年の東日本大震災以降も、EVとPHEVで実績を積み上げてきた。そこから生まれた一つが「可動式蓄電池システム」である。
「アウトランダーPHEVの使用済みリチウムイオンバッテリーは、ほかの用途でまだ使える容量を残しています。これを3台分まとめ、牽引して電気を必要とする場所へ運搬します。体育館など避難場所で活用でき、また、停電したビルのエレベーターを動かす実証も済ませています」
災害対応で必要な電力には、さまざまな要望がある。たとえば、スマートフォンなど低電圧の機器であれば、太陽光発電と電動車で使用済みのバッテリーを組み合わせた自律型街路灯から電気を取り出して充電することができる。あるいは、アウトランダーPHEVに装備された外部給電用コンセントを使えば、家庭用電化製品を利用できる。自治体との災害時協力協定の締結も着々と進んでおり、状況に応じた柔軟な電力供給の選択肢を提示している。
オープン戦略で「三菱自動車らしさ」を体現する
三菱自動車のモビリティビジネスの根幹にあるのは、データの「オープン戦略」だ。
「知見を重ねて得た豊富なデータを当社で囲い込まず、ビジネスにつなげようとする意欲的な企業に公開しています。具体的な展望が見えなければ、相手先も事業化の目途が立ちません。当社が門戸を開いたオープン戦略を取り、素早く回答すれば、相手先もますます手ごたえを感じることができます。『一緒に挑戦しましょう』と、声を掛けていきたい」と、岩本氏は今後の展望を語る。
研究や実証実験の段階に留まらず、事業化に結びつけるその姿勢は、産業界のみならず学問・研究分野からも注目を集めている。
「三菱自動車は面白いことに挑戦するブランドでありたい。お客様の要望に耳を傾け、社会に貢献することで、『三菱自動車らしいね』と言っていただけるような、そんな未来を創っていきたいと考えています」
伝統ある自動車メーカーの枠を飛び越え、三菱自動車は今、移動の未来を、そして社会のあり方を描き変えようとしている。