行政のデジタル化は、国民生活の利便性と社会全体の生産性を左右する重要なテーマだ。その最前線に立つデジタル庁では、民間出身者と国の行政を担ってきた行政官が肩を並べ、国家規模の基盤システムを構築・刷新している。同庁では組織規模の拡張に伴い、デジタル分野の専門知識を有する人材の中途採用に力を入れているが、実際のところ、どのような“職場”なのか。府省庁を横断する基幹システムの改修・改善を率いる民間出身者と行政官の2人に、官民混成チームの“働き方のリアル”と“働きがいの核心”について聞いた。

行政人材も民間人材も、多様な職歴を持つ人が集うユニークな組織

未来志向のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進し、デジタル時代の官民のインフラを作り上げることを目指して2021年9月に誕生したデジタル庁。「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」をミッションに掲げ、官民のデジタル基盤を整備することを目指している。

職員数は2026年1月時点で約1200人。早期に1500人体制まで拡大させる計画だが、特徴的なのは、その内訳だ。デジタル庁の直接採用ならびに各府省庁等や自治体から主に2年単位で出向する行政人材と、民間出身の人材で構成されている。行政人材は約500人、民間出身の人材は約700人と民間出身者のほうが多い。行政の現場と民間の知見をつなぐ官民融合組織として霞が関でもユニークな組成となっている。

トップにデジタル大臣が、その下に多様な経験を持つデジタル監と行政での経験を豊富に積んだデジタル審議官がおり、デジタル監の下にCxO(CPO、CTO、CISOなど)、民間専門人材ユニットが配置される。組織は、4つの事業グループから構成され、よく知られている国民向けサービスであるマイナンバーカード関連事業はもちろん、政策立案から省庁向けの基盤整備、行政サービス提供まで幅広く取り組む。(2026年2月現在)

省庁向けの基盤整備を行うグループに属し、基幹システムの改修・改善プロジェクトを率いるのが、民間出身の同庁 省庁業務サービスグループ SEABISチームリーダー兼プロジェクトマネージャーの砂押英幸さんだ。

砂押英幸(すなおし・ひでゆき) デジタル庁 省庁業務サービスグループ SEABISチームリーダー兼プロジェクトマネージャー 1979年生まれ。外資系ITベンダーやコンサルティングファームにてプロジェクトマネージャーとして数々のプロジェクトを推進。その後、国内大手証券会社のIT部門の管理職として、複数のシステム開発・運用とプロジェクト推進を担当するチームを主導。2023年9月デジタル庁入庁。
砂押英幸(すなおし・ひでゆき)
デジタル庁
省庁業務サービスグループ SEABISチームリーダー兼プロジェクトマネージャー
1979年生まれ。外資系ITベンダーやコンサルティングファームにてプロジェクトマネージャーとして数々のプロジェクトを推進。その後、国内大手証券会社のIT部門の管理職として、複数のシステム開発・運用とプロジェクト推進を担当するチームを主導。2023年9月デジタル庁入庁。

SEABISとは、旅費等内部管理業務共通システムの略称で、国家公務員等の出張・赴任旅費の計画・精算、外部委員等への謝金・諸手当の支払い、物品管理の3業務を担う府省庁等共通の内部管理系システム群である。2025年4月には、公務員の旅費をめぐる法律改正に合わせて大規模な改修を実施。宿泊費を定額支給から実費支給へ変更、高額な職員の立替払い軽減のための旅行代理店・クレジットカード会社等からの国への直接請求など、業務効率化と現場の負担軽減に向けた制度・業務・システム三位一体の改革が進められている。

「一つひとつの機能だけを見れば、民間でも見慣れた出張精算システムですが、30を超える府省庁等にて約40万人の国家公務員の業務処理を行うというスケールの大きさと業務の正確性を求める機能の複雑さは、民間にはなかなか見られないものです。初期バージョンがリリースされ十数年経ち、安定的に利用されているシステムに対して、業務プロセス改善を含めてUIUXやシステムアーキテクチャを抜本的に刷新しようという取り組みは、難易度が高いですがチャレンジしがいのある仕事です」(砂押さん)

行政官と民間人材が“二人三脚”でプロジェクトを推進

デジタル庁では、多種多様な事業やプロジェクトが存在する。それらの実現にあたって、チームを組成しており、プロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー、エンジニア、デザイナー、セキュリティ、ネットワークなど、多様な専門人材と行政官が混成チームを組み、そのリソースはフェーズに応じて柔軟に入れ替わる。

「“局・部・課・室”という多くの省庁で採用される組織階層から成る固定的な枠組みだと、システム開発の波にあわせて人を動かすのが難しいのですが、デジタル庁はプロジェクト単位で人員をアサインできるので、リソース調整がしやすい。新しい技術や業務に対しても、スピーディーにチームを組成できるので、プロジェクト遂行によい影響をもたらしています」と説明するのは、同庁 省庁業務サービスグループ 総括参事官の内藤新一さんだ。

内藤新一(ないとう・しんいち) デジタル庁 省庁業務サービスグループ 総括参事官 1976年生まれ。1998年旧郵政省入省。総務省において情報通信技術(ICT)による地域課題や無線機器等の基準認証等を担当。2025年7月デジタル庁に異動。
内藤新一(ないとう・しんいち)
デジタル庁
省庁業務サービスグループ 総括参事官
1976年生まれ。1998年旧郵政省入省。総務省において情報通信技術(ICT)による地域課題や無線機器等の基準認証等を担当。2025年7月デジタル庁に異動。

「プロジェクト群のリーダーは、多くは行政官が担っているポジションですが、デジタル庁も発足から5年目を迎え民間出身者がその役割を担うケースも出てきました。SEABISチームでも民間出身の砂押さんがリーダーとして行政官・民間人材の両方を含むチームのマネジメントをしています。国の事業としての予算要求や国会対応など、霞が関ならではの業務については、行政官である私がサポートしながら、二人三脚で推進しています」(内藤さん)

この“二人三脚”スタイルを、民間出身である砂押さんはどのように感じているのか。

「行政官が常にサポートしてくれる安心感は非常に大きいです。例えば、旅費法改正時の国会対応ではどう進めればよいか右も左もわからなかったところ、議員レクや委員会審議に同行いただいたり、国の予算要求に際しての進め方を一緒に検討したりと、共に仕事を進めるなかで霞が関ならでは行政業務の経験と知見を身に付けることができました。また、SEABIS業務要件の検討にて各府省庁へ説明や交渉に行く場面でも、行政官が並走してくれるので、デジタル庁の一員として自信を持って他府省庁の行政官と向き合うことができます」(砂押さん)

風通しのよい組織、“デジタル庁の一員”として課題解決に挑む

ただ、そうは言っても「霞が関で働く」と聞くと、ハードルの高さを感じる人も多いだろう。

「私自身、入庁前は不安だらけでした。国の仕事をしたこともなければ、国家公務員の知人もいなかったので、どんな職場なのか想像がつきませんでした」と言う砂押さん。入庁のきっかけは、SNSでのデジタル庁の採用情報だったそうだ。

「デジタル庁が民間人材を募集しているというメッセージを見たのです。国全体を相手にする仕事のスケール感、プロジェクトマネージャーとして培ってきたスキルを国のために活かせるのではないかという期待感、そして民間の経験豊富な専門家が集まっている環境に身を置くことで自分も成長できるのではないかと考え、挑戦してみようと思いました」(砂押さん)

実際に働いてみて感じたのは、「入庁前の不安は杞憂で、行政官と民間人材が対等なパートナーとして扱われ、自身の専門分野を発揮できる職場」だということだ。

「“外様扱い”される覚悟もしていましたが(笑)、行政官か民間出身かに関係なくデジタル庁の一つのチームのリーダーポジションとして仕事を任せてもらえて、国レベルの大きな課題解決のために働ける職場だと感じています。そもそも行政官か民間出身かを気にしている人はほとんどいないですし、対等な立場で同じ目標に向かって仕事をしていると感じられます。また、コミュニケーションツールは基本的にチャットを利用することが多く、上司・部下、行政人材・民間人材問わず、誰とでも気軽に会話できる風通しのよさがあります。やろうと思えば、大臣・副大臣・政務官に直接チャットすることもできますね」(砂押さん)

一方の内藤さんは、行政官が民間人材とチームを組むメリットをこう語る。

「行政官は2年ごとに異動することが多いので、業務を通じて組織に知見を蓄積しにくいという課題がありました。専門性を持つ民間人材にその部分を担ってもらうことで、知見を活かしつつ、システム全体を俯瞰した設計や、スピード感のある意思決定ができるようになってきたと感じます。行政と民間の“いいとこ取り”ができるのが、デジタル庁の大きな強みだと思います」

SEABISを操作する砂押さん。SEABIS利用の府省庁等に赴き、さまざまなニーズをくみ取りながら、次期システムの抜本的刷新の検討とともに、現行システムのユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)の改善にチームで取り組む。操作マニュアルについて、生成AI“源内”を利用したチャットボットの活用と、操作画像を画面上に表示する「デジタルアダプションプラットフォーム」ツールの導入を進めており、「マニュアルがないと入力できない」「マニュアルが膨大で使いこなせない」といった長年の課題を解決することができると期待している。生成AIやデジタルアダプションプラットフォームは民間企業で一般的に利用されるツールだが、官公庁で開発された業務システム上での導入は画期的な取り組みだ。
SEABISを操作する砂押さん。SEABIS利用の府省庁等に赴き、さまざまなニーズをくみ取りながら、次期システムの抜本的刷新の検討とともに、現行システムのユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)の改善にチームで取り組む。操作マニュアルについて、生成AI“源内”を利用したチャットボットの活用と、操作画像を画面上に表示する「デジタルアダプションプラットフォーム」ツールの導入を進めており、「マニュアルがないと入力できない」「マニュアルが膨大で使いこなせない」といった長年の課題を解決することができると期待している。生成AIやデジタルアダプションプラットフォームは民間企業で一般的に利用されるツールだが、官公庁で開発された業務システム上での導入は画期的な取り組みだ。

行政と民間を行き来しながら磨く専門性、霞が関のDX推進にも期待

デジタル庁の民間人材は、1年ごとの任期で、評価等を踏まえて再採用(契約更新)される。長期的に活躍する職員も増えてきている。

「前職は安定した大手証券会社の管理職だったので、発足したばかりのデジタル庁に移って大丈夫か、自分のスキルが通用するのかと、悩む部分は相当ありました。ただ、ここで得られる経験や人的ネットワークは、自分の将来のキャリア形成につながるはずだと考え、転職を決めました。現在は、SEABISチームリーダーという役割を与えていただけており、新しいシステムへの刷新という難易度の高い事業を行っております。ここでは民間でのITコンサルティング、プロジェクトマネジメントや管理職の経験をフルに活かすことができており、微力ながらも自分が国へ貢献できていると感じております。今は腰を据えて長期的にこのプロジェクトに携わっていきたいと考えています」(砂押さん)

現在、デジタル庁には、民間企業で豊富な経験を積んだ、多様な専門スキルを持つ人材が集まっている。

「行政と民間を行き来しながら専門性を磨くリボルビングドア型のキャリアの一歩として、デジタル庁を一つのキャリアとして選ぶ人が増えていってほしいと思っています。行政の現場を内側から理解したうえで民間に戻ることは、官公庁向けビジネスなどを展開する企業にとっても大きな武器になりますし、民間の最前線を経験してから行政側に再度戻ってそのスキルを国に活かすというキャリアもあり得ると思います。民間にとっても、行政にとってもプラスになる循環がつくれると感じています」(砂押さん)

内藤さんも、「デジタル庁での経験を持った行政官が各省庁に戻っていくこと自体が、霞が関全体のDXを前に進めるエンジンになる」と語る。

「コミュニケーションツールや生成AIを日常的に使いこなし、官民混成のチームで大規模プロジェクトを推進してきた職員が各省庁に散らばっていくことで、デジタル庁発の仕事の進め方、働き方のアップデートが広がっていくのではないかと考えます」(内藤さん)

民間で磨いたスキルを社会や人のために活かし、成長できる“職場”

デジタル庁では、今後プロジェクトマネージャー、プロダクトマネージャー、クラウド・バックエンド・フロントエンド・ソフトウェア・ネットワーク等多数の領域のエンジニア、デザイナーなど、専門的な知識と経験を持つデジタル人材の採用をさらに強化していく予定だ。また、AIやセキュリティ等の領域に知見を持つ人材の採用にも注力したいと考えている。

「例えばプロジェクトマネージャー職は、システム開発の現場経験に加えて、予算管理やリスクマネジメント、ステークホルダー調整など、“総合格闘技的なスキル”が求められます。民間で大規模プロジェクトなどを経験してきた方は、存分に力を発揮できる環境だと思います。行政の仕事と言っても、システムの構想策定から開発、運用の進め方自体は民間と同じであり何ら特殊なことはありません。例えば、プロジェクトマネジメントであればPMBOKを、運用であればITILをベースにするなど、やることの基本動作は民間も行政も同じです。ですので、民間の経験・知見は十分に活かすことができます。

これまでの経験を“国のため、公共のため”に活かす仕事は大きなやりがいがあります。私たちSEABISチームは府省庁向けのサービスを担当していますが、日々のシステム改善においても、利用府省庁の皆さまから、“わかりやすくなったね”“要望を聞いてくれてありがとう”という言葉をいただけることはうれしく、国家公務員の業務効率化が間接的には国民の皆さまにつながるという思いがモチベーションとなっています。デジタル庁の仕事は、誰のために何をしているのかが、とてもわかりやすい。自分の仕事が社会にどのように活きるかを実感しながら働きたい方に、ぜひチャレンジしてほしいと思います」(砂押さん)

「最初はハードルが高く見えるかもしれませんが、実際に入ってみると、とてもフラットで働きやすい組織です。国家規模の課題解決という共通の目的に向かって、官民が対等な立場で議論し、動いていく。そんな場で自分の力を試してみたいという方に、ぜひ扉をたたいていただきたいです」(内藤さん)

デジタル庁は、民間で磨いた専門性を行政に活かせる希少な場といえる。日本のDXを本気で前に進めたいシニアIT人材にとって、次の一歩を踏み出すに値するフィールドが、そこには広がっている。

デジタル庁では「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を実現するため、幅広く人材を募集しています。デジタル庁で実施している採用の種類と採用情報は以下をご覧ください。