5科目の偏差値60超でも志望校を断念

学習塾の現場で最も多く目にするのは、実技4科目の内申点を上げることが難しいと判断し、志望校のランクを下げざるを得ない事例です。

事例1:偏差値が届いているのに内申点が足りず志望校を下げる

主要5科目の偏差値が60を超える生徒がいました。「60」というと上位20%程度に位置する実力です。この生徒はもともと偏差値59の都立高校を目指していたのですが、換算内申は、65満点中42点でした(※)。その高校は内申点オール4(65満点中52点)以上がボーダーと言われています。その生徒は学力検査では合格圏内ですが内申点が足りないため、志望校を偏差値54の都立高校に下げました。

(※)都内入試の内申点は65点満点。5教科×5点+4教科×5点×2倍。9科目オール3の場合:(3×5)+(3×4×2)=15+24=39点

事例2:得意だった音楽が「3」でトップ校を断念

主要5教科の成績が優秀で偏差値63の都立高校を目指していた男子生徒は幼いころからピアノを習っており、音楽には絶対の自信がありました。ただ、「合唱コンクールの伴奏にも選ばれたし、実技テストで点が取れるから音楽は安心」と高をくくり、1学期期末試験の勉強を疎かにし、授業での音楽鑑賞のレポートも気が緩んでいました。その結果、1学期についた内申点は「3」。

弾き込まれたピアノ
写真=iStock.com/fermate
※写真はイメージです

都立トップ校を目指す場合、実技4科目は「5」がほしいところです。1学期に「3」がつくと2学期に挽回して「5」にすることは至難の業です。このひとつの「3」が致命傷になり、彼は都立トップ校への出願を諦めることになりました。

【図表】東京都の主な公立高校の偏差値一覧(共学・普通科の「50」以上)
※家庭教師のトライHPの情報を基に編集部作成
事例3:選択肢から都立を外す

「9科目をまんべんなくこなす」という都立入試のスタイルが合わず、都立を選択肢から外さざるをえなかった生徒もいました。

中1は順風満帆でした。学習内容は彼にとってそこまで難しくなく、9科目の期末試験も難なく乗り切ることができました。しかし、中2の1学期の期末試験から歯車が狂いはじめます。中2になって主要5科目の難度が上がりました。授業を聞いているだけで高得点が取れた1年生とは異なり、自宅でも復習しないとこれまでの点数を維持することができません。

実技4科目のテスト対策に時間を割こうとすると、難化した主要5科目の勉強時間が圧迫され、点数が下がってしまう。かといって主要科目を優先すれば実技科目がボロボロになる……。まさに「共倒れ」の状態でした。

「多くの科目で高得点を狙うと、強みである3教科の対策が疎かになってしまう」、そう思った彼は、中3の志望校検討の段階で、都立高校の受験を断念しました。

高い基礎学力を持っていても、複数科目をバランスよくこなす器用さがない生徒は、学費の安い都立高校という選択肢そのものを捨てざるを得ない。これもまた、内申点重視の入試が生む一つの現実です。

なお、実技科目に関しては弊著『中学校の実技4科が1冊でしっかりわかる本』(かんき出版)を参照してください。