持続可能な社会の実現に向け、「脱炭素」の推進は今や社会的責任の一つ。その取り組み内容や実績は、消費者、投資家などが企業を評価する際の重要な基準ともなっている。そうした中、取り組みを始める、また充実させる“きっかけになる”と企業などから支持を集めているのが、東京都が進める「HTTアクション」だ。電力を「H(へらす)」「T(つくる)」「T(ためる)」をキーワードに、脱炭素社会の実現を後押しするプロジェクトである。2023年からは「HTT取組推進宣言企業」の登録制度がスタート。節電や創エネ、蓄電などを行う登録企業には登録証が発行され、東京都のウェブサイトに社名や活動内容が掲載されるようになっている。そこで今回、登録企業の一つである東急不動産ホールディングスにインタビュー。具体的な活動内容や「HTT取組推進宣言企業」となる意義などを聞いた。

シンプルで明快だからHTTは取り組みやすい

東急不動産ホールディングスは2021年に策定した長期経営方針において、「環境経営」を全社方針として掲げている。背景としてあったのは、環境対応の在り方によって商品・サービスが選別される世の中になっていくとの思いだ。

中野由美(なかの・ゆみ)
中野由美(なかの・ゆみ)
東急不動産ホールディングス株式会社
執行役員
グループサステナビリティ推進部
コーポレートコミュニケーション部担当

「当時、不動産開発、運営を担う企業で明確に『環境』を打ち出すところは決して多くありませんでした。しかし、事業活動を通じて社会課題の解決に貢献することは、創業以来、私たちの基本にあるDNA。当社グループにとって環境経営の実践は当然の方針といえました」

東急不動産ホールディングスの中野由美氏はそう説明する。

24年に東急不動産が国内の事業会社で初めて「RE100達成」(※1)の認定を受けるなど環境先進企業として知られる同社グループが「HTT取組推進宣言企業」に登録した理由。それは、プロジェクトの分かりやすさだという。

「電力を『へらす』『つくる』『ためる』というのがとてもシンプルで明快。環境保全や脱炭素が重要だと理解していても、いざ具体的に行動するとなると、何から始めればいいのか迷ってしまう。そうしたとき、HTTアクションは一つの手掛かりになります。すでに私たちは、脱炭素に関わるさまざまな事業や施策を進めていますが、その際の意識の向上にもHTTアクションが役に立つと考えました」(中野氏)

再生可能エネルギー事業を将来の事業の柱の一つに

東急不動産ホールディングスグループの取り組みとして、建物が1年間で消費するエネルギーの量を実質ゼロ以下にする「ZEH・ZEB」(※2)の推進がある。当初の目標は「着工ベースでZEB/ZEH Oriented(※3)相当またはそれを超える建物性能を30年度までに100%とする」であったが、24年度にこれを前倒しで達成。使用エネルギーを「へらす」ことに大きく貢献している。

「加えて私たちは、新築だけでなく、既存のオフィスビルについても、改修時に設備を交換するなどしてZEB化を進めています。社会的に有用な不動産ストックを次世代に引き継いでいくことはデベロッパーの重要な責務だと考えているからです」(中野氏)

東京ポートシティ竹芝オフィスタワー
東急不動産等が開発した「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー」。同施設および同敷地内の使用電力は100%再生可能エネルギーだ。

一方で、再生可能エネルギー事業も10年以上前から力を注いでいる事業だ。「ReENE(リエネ)」のブランド名で全国に太陽光発電所や風力発電所を持ち、現在、合計の定格容量は2.6ギガワット超。国内でトップクラスの発電能力である。

「私たちはこれを単に自社での活用、地域や社会への貢献として取り組むのではなく、事業の柱の一つとして成長させていく考えです」と中野氏は言う。実際、電力系統に蓄電池を直接接続する事業を手掛けたり、電力小売事業に参入したりしており、すでに再生可能エネルギーのバリューチェーンを構築済みだ。

風車
2014年から全国各地で再生可能エネルギー事業を展開。「地域社会とのつながり」をキーワードに、地域に根差した発電所開発などを行っている。

「さらに私たちは、各地の発電設備も活用しながら独自の『環境教育プログラム』を提供しています。小中学校で出前授業を行ったり、子ども向けのフェスを開催して再生可能エネルギーを身近に感じてもらったり――。東急不動産ホールディングスではステークホルダーの一つに『未来社会』を挙げており、子どもたちも共に地球の未来を考えるパートナー。そうした思いで幅広い取り組みを行っています」

小学生向けの環境教育の様子
小学生向けの環境教育の様子。実際の太陽光発電所の見学と環境問題や再生可能エネルギー、また地域について学ぶ授業がセットで行われた。

環境価値のマネタイズが今後ますます重要に

脱炭素や環境保全のための取り組みというと、どうしてもそのコストに目がいきがちだ。ただ、もう一つ重要な視点はそれらの取り組みと“企業価値”との関係だろう。優れた取り組みは社会的に評価され、ブランド力の向上や他社との差別化につながっていく。「HTT取組推進宣言企業」からも、取り組みを発信することで「企業イメージがアップした」「従業員のエンゲージメントが高まった」「自信を持ってサービスを提供できるようになった」などの声が上がっている。

「東急不動産ホールディングスは『中期経営計画2030』で環境経営をバージョンアップし、そのテーマを『環境プレミアムの創出』としました。環境先進性と社会課題解決を掛け合わせて、高い付加価値を提供し、収益力の強化を目指します」(中野氏)

脱炭素に向けた取り組みを持続的なものとするには、事業として成立させるのが一つの方法だ。環境価値をいかにマネタイズするか――。それは今後ますます重要なテーマとなるだろう。

「引き続きグループ内でHTTアクションの価値を共有していきたい」と言う中野氏は、社外に向けても次のようにメッセージを送った。

「当然ながら脱炭素やエネルギーの問題は一企業で解決できるものではありません。多様な連携が大きな成果を生む力になりますから、ぜひ多くの皆さまと一緒に取り組みを進めていければと思っています」

業種業態に関係なく、都内に本社や事業所を置く企業・団体などが登録できる「HTT取組推進宣言企業」。その広がりも、今後新たな連携を後押しする一つの力となるだろう。

※1 企業が自らの事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ。
※2 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略。
※3 ZEB Orientedは一次エネルギー消費量を30%以上または40%以上削減した延べ面積10,000m2以上の建物のこと。ZEH Orientedは一次エネルギー消費量を20%以上削減した住宅のこと。

HTT取組推進宣言企業登録申請受け付け中

650を超える企業・団体が登録している「HTT取組推進宣言企業」(2025年10月末現在)。登録した企業には、以下のような特典があります。

■HTT取組推進宣言企業の登録証が発行されます。
■東京都のウェブサイトに企業名や取組内容等を掲載します。
■東京都の中小企業制度融資の対象となります。
都内に本社または事業所を置く企業・団体などを対象に、以下から登録申請が可能です。