すでに日本企業40社が46件のブランドTLDを活用
日常生活において意識することなく使っているメールアドレスやURLには、「トップレベルドメイン(TLD)」が含まれている。ドメインはインターネット上の住所を示す文字列であり、「www.example.com」のようにピリオド(.)で階層が区切られている。その一番右側に位置する「.com」や「.jp」などがTLDである。これを企業名やブランド名で取得できることに着想を得て「.貴社名(どっときしゃめい)」とサービスを名付けたという。

ブランドTLDの最大の特徴は、厳密な審査を経た企業のみが取得できる唯一無二のドメインであること。2012年にキヤノン、トヨタ自動車、ソニー、ブリヂストンといった40社の日本企業が、合計46件のブランドTLDを取得している。そして先頃、2026年4月~8月の追加募集が決定し、14年ぶりに新たなブランドTLDを取得するまたとない機会が到来したのである(※)。
※ドメインを管理する国際機関であるICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers、アイキャン)の厳密な審査によって取得が可能になる。
「検索する」から「AIに聞く」時代に、ブランドTLDがもたらす数々のメリット
では、ブランドTLDの取得・運用は具体的にどのようなメリットを企業にもたらしてくれるのだろうか。中川氏はわかりやすい例えでその本質を説明した。
「ブランドTLDを持つということは、インターネットの世界における銀座や表参道の一等地に自社ビルを建てて、社会における信用度を増すのと同じです。いま多くの企業が利用している『.com』は、『.comマンションの一室を借りる』賃貸契約のようなもので、管理や運用に制約があります。でも自社ビルであれば、設計の段階から自らの意思で自由に決められます」

まず期待されるのは、来るべきAI検索時代における「公式な情報源」としての地位確立だ。中川氏は次のように続ける。
「近い将来、ユーザーが情報をキーワードで『検索する』のではなく、対話型AIに『聞く』ことが主流となり、AIは回答の精度と信頼性を担保するため、情報の出所を厳格に評価するようになると考えられます。その際、企業自身が管理し、第三者によるなりすましが構造上不可能なブランドTLDのウェブサイトは、AIが『本物』の公式サイトであると認識する可能性が高いでしょう。自社サイトの情報がAIによって参照・生成される機会が増えれば、情報配信活動における優位性は確固たるものになります。また、ユーザーに正確な情報が届くことで、企業ウェブサイトの価値そのものを飛躍的に高めることにもつながるのです」
このように、外部に対する優位性や信頼性の基盤を固めることは、企業内部の課題解決にも直結する。その筆頭に挙げられるのが、ガバナンスの向上である。大企業やグローバル企業では、各部門や子会社、販売代理店などが必要に応じて個別にドメインネームを取得・運用しているケースが多い。その結果、全社的な把握が困難となり、社内ルールを順守せずに脆弱な状態で開設したサイトから情報漏洩を引き起こすケースが後を絶たない。そこでブランドTLDを導入し、ドメインの割り当てに一定のルールを課せば、ガバナンスを利かせた運用への移行が可能になる。
次に考えられるのがセキュリティの強化であり、中川氏は「『.comマンション』で借りていた部屋を開け渡すと、第三者に同じドメインを取得され悪用される恐れがあります。しかし、管理が行き届いた自社ビルであるブランドTLDであれば、第三者に取得され悪用されることなく、URLを確認すれば、ユーザーは正規か偽装かを判断しやすくなります」と話す。
昨今、あらゆる企業がフィッシングサイトや詐欺サイトなどの脅威にさらされている。ブランドTLDは、絶対的に信頼できる発信元を築くことで、その対抗策の切り札になりえるわけだ。さらに「企業ロゴ付きメール」を表示するBIMI(Brand Indicators for Message Identification)を活用することで信頼感をより高めれば、鬼に金棒といえるだろう。
とはいえ、ブランドTLD取得の費用対効果も当然のことながら気になってくる。そこで、セキュリティ対策に費やしている現状のコストから考えてみよう。終了したキャンペーンサイトのドメインを放棄したところ、第三者が取得して似たようなフィッシングサイトを作ることがある。対策としてドメインを買い戻すわけだが、数百万円かかることもある。
「そうしたことが重なっていくと、最終的に数千万円、数億円のコストに膨らんでしまいます。情報セキュリティの観点だけでも、導入コストを上回るメリットが十分にあります」と中川氏は主張する。
ただし、登録を希望する文字列が他社と競合する可能性が残る。募集が行われるたびにブランドTLDの認知度が高まり、バッティングする可能性が大きくなる恐れがある。だからこそ、今回のチャンスを生かしたい。
GMOブランドセキュリティ株式会社 代表取締役社長
経営トップの意思で最大の効果をもたらす
オンライン上のユーザーとのすべての接点に共通するのがドメインであり、ブランドTLDを活用することで、「商品名.BrandName」「キャンペーン名.BrandName」という、直感的でわかりやすいURLを自在に設計できるようになる。そうすることによって、誰が提供する商品やサービスなのかを迅速かつ明確に伝えられ、自社のマーケティングやブランディングの強化にもつながっていくわけだ。
中川氏は、「私たちは2012年に『.gmo』のブランドTLDを取得しました。そして、毎年開催している音楽イベント『GMO SONIC』で、『sonic.gmo』というドメインネームを使っています。広告やSNSなどのスペースの限られた媒体で短くて覚えやすいブランドTLDの持つPR力を発揮させ、ブランド認知効果の最大化を図っています」と有効な活用例を教えてくれた。
一般名称の商品・サービスの場合、その名称でドメインを取得することは困難だ。しかし、TLDが自社名であれば『internet.gmo』のように自分たちのルールでドメインを作成し運用することが可能になる。
そういった話を聞いて、既存のドメインからブランドTLDへ一気に切り換えることで、社内外で混乱を招いてしまわないか、懸念する人が少なからずいるはず。その懸念を払拭するアドバイスを中川氏がしてくれた。
「自社ビルの建設に例えましたが、自社ビルは瞬時に完成するわけではなく、設計から施工へ時間をかけながら進められていきます。その段階で移転に関する前準備をしっかり行います。そして自社ビルが完成したら、いま間借りしているビルから徐々に移っていくイメージで臨んでいただければいいでしょう。中長期的なビジョンに基づいて、段階を踏みながら進めていくことが大切です」
実際のブランドTLDの運用で最も重要なのが、ブランドオーナーである経営トップの意思だ。多くの企業では、最上位のブランドは企業名になるだろう。その下に地域別や商品・サービス別のブランドがぶら下がる構造になる。
「ブランドTLDの導入を進めていくにあたり、そうした自社が保有するブランド資産を体系的に整理し、個々のブランドの価値をさらに高めていくことが重要なポイントになります。それには全社挙げての取り組みが不可欠であり、経営トップの強いリーダーシップなくしては動きません」と中川氏は力説する。
国内で初めてブランドTLD取得をリリースしたのがキヤノンだ。2015年2月に「.canon」取得を発表し、2016年5月になるとグローバルサイトのURLを「www.canon.com」から「global.canon」へ移行した。さらに2018年1月にキヤノンメディカルシステムズグループの社名変更に伴って「medical.canon」の利用を開始し、同じ年の8月にはメールアドレスのドメインネームを「@canon.co.jp」から「@mail.canon」へ変更した。この一連の動きを見て、ブランドTLDを取得済みの他の日本企業も、ブランド資産の見直しを含めた活用に積極的に取り組むようになっている。
GMOブランドセキュリティは、ブランドTLDの申請・取得に関するサポートだけでなく、実運用面でのサポートも総合的に行っている。同社が属するGMOインターネットグループ自身が、ブランドTLD「.gmo」を取得・運用している当事者であるため、現場に即した踏み込んだ支援ができる圧倒的な強みを持っているのだ。それらのサポートを仰ぎながら、ブランドTLDの活用で先行する企業にぜひ追い付きたい。
そして最後に忘れてはならないのが、ベンチャー企業にとってもブランドTLDは有用であるということ。「むしろゼロに近い状態からビジネスの構築やブランド価値の創出に取り組めるメリットがあります。立ち上げ期からブランドTLDを軸にして、さまざまな事業を展開していくことができるのです。ぜひ『.貴社名』のサービスを通して、そのお手伝いをさせていただければ幸いです」と中川氏は呼びかけた。