多様化するニーズに応えるべく、生命保険を中心にアセットマネジメント、ヘルスケア、介護・保育など「安心の多面体としての企業グループ」を目指す日本生命。グループ会社のニッセイアセットマネジメント、ニッセイ・キャピタルによる国内ベンチャーキャピタルとスタートアップを投資対象とするファンドが着々と実績を重ねるなど、持続的なイノベーション創出の機運を高めている。日本生命常務執行役員の増山尚志氏は「期待を超え続けていきたい」と語る。

――事業変革の動きを加速させています。どのような背景があるのか、改めて教えてください。

増山尚志(ますやま・たかし) 日本生命保険相互会社 常務執行役員 1993年入社。はなさく生命代表取締役社長、執行役員総合企画部長を歴任。2025年度から常務執行役員として、DX戦略企画部・イノベーション開発室・ライフサポート事業部・ヘルスケア事業部。
増山尚志(ますやま・たかし)
日本生命保険相互会社
常務執行役員
1993年入社。はなさく生命代表取締役社長、執行役員総合企画部長を歴任。2025年度から常務執行役員として、DX戦略企画部・イノベーション開発室・ライフサポート事業部・ヘルスケア事業部。

【増山】「中期経営計画(2024-2026)」の作成に当たり、この3年間にとどまらず、より長期のビジョンで日本生命が目指すべき企業像を描いていく中で生まれたのが「安心の多面体」というキーワードです。事業環境を捉える上では、まず少子高齢化やデジタル化の進展に当社がどう対応していくのか。そして、「失われた30年」といわれる時代からインフレに転じた現在の事業環境にどう向き合っていくかという視点がポイントでした。お客さまのニーズも従来とは大きく変わり、日本生命に求められる役割は万が一の時の保険商品を提供するだけでなく、老後の資産形成や健康維持、介護といった「人生100年時代をどうサポートできるか」へと広がってきたことを実感しています。

これまでも、全国にいる約5万人の営業職員が皆さまと一緒に地域に根差した活動を展開し、課題解決のお役に立てるよう努めてきました。当社の中心である保険事業の高度化を引き続き図りつつ、「安心の多面体」として幅広いニーズに応える事業を提供していきたいと考えています。こうした取り組みを掛け合わせることで新しい価値をお届けしながら会社としても成長を続け、そこからまた新たなイノベーションを生む好循環を創出し、お客さま利益の最大化を目指してまいります。

投資を通じてネットワーク拡大 注目される二つのファンドとは

――イノベーションを生み出し続けるための具体的なアクションとして、2024年にはニッセイアセットマネジメント、ニッセイ・キャピタルの2社によるファンドを設立されました。

【増山】16年、米シリコンバレーへ駐在員を派遣したことが出発点です。当地での先進的な技術の探索などに加えて、海外の投資枠を設けることで、さまざまな企業や機関との関係性を構築してきました。出資先が有する技術を日本でのビジネスに実装してきた他、24年4月からはスタンフォード大学との「疾病予測AI」の共同研究に本格的に着手するなど、幅広いネットワークを拡大してきたのです。そうした中で、国内においてもスタートアップ市場は拡大を続けており、有望な企業や企業家が続々と誕生するようになりました。また、国が掲げる資産運用立国を実現する後押しとなるためにも、日本生命の100%子会社2社による国内ベンチャーキャピタルおよびスタートアップに投資するファンドの設立に至ったわけです。

ニッセイアセットマネジメントのファンド「NISSAY Startup Support Fund I」の投資金額は300億円、国内ベンチャーキャピタルが運用するファンドが投資対象で、新興資産運用業者への運用資金拠出促進を図るプログラムEMP(Emerging Managers Program)にも資する取り組みです。現在、新興運用業社を含む計5社のベンチャーキャピタルが運用するファンドに出資が完了しています。

ニッセイ・キャピタルのファンド「ニッセイ・ストラテジック1号投資事業有限責任組合」の投資金額は50億円、国内スタートアップが投資対象です。投資先との事業共創を追求し、当社の新規事業開発、保険事業高度化に貢献する先端技術を探索します。現在、国内スタートアップ4社に出資し、具体的な協業を進めています。

国内ベンチャーキャピタルに幅広く資金を提供するニッセイアセットマネジメントのファンド「NISSAY Startup Support Fund I」は運用期間20年、国内スタートアップを投資対象とするニッセイ・キャピタルのファンド「ニッセイ・ストラテジック1号投資事業有限責任組合」は運用期間15年。長期的な視点で国内スタートアップ市場拡大への貢献を目指しているため、いずれのファンドも一般的なベンチャーキャピタルファンドと比較して長めの運用期間を設定している。
国内ベンチャーキャピタルに幅広く資金を提供するニッセイアセットマネジメントのファンド「NISSAY Startup Support Fund I」は運用期間20年、国内スタートアップを投資対象とするニッセイ・キャピタルのファンド「ニッセイ・ストラテジック1号投資事業有限責任組合」は運用期間15年。長期的な視点で国内スタートアップ市場拡大への貢献を目指しているため、いずれのファンドも一般的なベンチャーキャピタルファンドと比較して長めの運用期間を設定している。

積極的なコラボレーションで人的資本経営の推進を後押し

――HQ社との業務提携による次世代福利厚生サービスの提供は、ファンドの成果ですね。

【増山】福利厚生のメニューを充実させているものの、手続きが複雑などの理由から、あまり利用されていないという悩みを持つ企業さまは多いです。その解決に貢献するソリューションとして、HQ社とコラボレーションしたのが「カフェテリアHQ」の人的資本投資プランです。ニーズの多様化が進む従業員の皆さまにとっては、AIによる一人一人に合わせたレコメンド機能の搭載で必要な制度を選択しやすくなり、利用率の向上が期待できます。また人事部門にとっては、複数の福利厚生制度を一元管理できることで業務負担の軽減になり、導入効果や利用状況を把握することが可能になります。サービス導入企業、HQ社、そして当社の3社にベネフィットをもたらす好例といえるでしょう。

――変革に対する社内の意識の高まりについてはどう感じていますか。

【増山】20年に始まった社内起業プロジェクト「AXELX(アクセル・エックス)」も回を重ねるごとに浸透し、安定的にアイデアが集まるようになりました。事業化第1号案件としてローンチした一時保育マッチングサービス「ちょこいく」は、25都道府県に展開しています。今まで自分たちがやってきたことのみに目を向けるのではなく、社会の動きや技術の進歩、外部とのつながりを踏まえて、どんな新しい取り組みで当社の「面」を広げることができるか、そんな意識が高まっていることを感じています。AIの活用を学ぶ社内プログラムもスタートさせましたので、デジタル技術への理解が深まることで、もっとこんなことができるんじゃないかというさらなるアイデアに結び付くことを期待しています。

私たちの取り組みは、きっと10年、20年先の日本生命にとって重要な財産となり、お客さまの生活の安定と向上に貢献していく、そんな思いを強く持って業務に当たっています。社会課題がますます複雑化し、予測不能な世の中になっていく中で、当社グループがいわばインフラのような存在となって広く支えていくことをイメージしています。中期経営計画のテーマを「期待を超える安心を、より多くのお客様へ。」と設定している通り、皆さまから、「日本生命は、こんなことまでやっているのか」と思っていただけるよう、前進していきたいと考えています。