大切なのは日本の外へ出て、リアルに“見て”“触れて”“感じる”こと

名古屋に居を構える両大学長が、教育と創造性について語り合って見えてきた芸術と科学の共通課題とは?

【來住】名古屋芸術大学は幼稚園から始まりました。その先生を育成するため大学の教育学部を設立。幼稚園で褒められるのは歌がうまい子、絵が上手な子。自然の成り行きとして音楽と美術の学部を設けたのです。

【杉山】名古屋大学は日本を代表する総合大学。グローバルでもトップレベルの研究大学になるのが願いです。ノーベル賞受賞者の先輩に負けない研究成果を出したいですね。

【來住】未来を担う学生たちの個性をどう伸ばしていくか、ですね。

【杉山】そうですね。研究も大きな要素ですがそれを成すにも教育が中核です。本学に“勇気ある知識人”という言葉があります。学問を修めて挑戦することです。グローバルとはダイバーシティに富んだ世界ですから、さまざまなフィールドにチャレンジする学生を育てていきたい。

來住尚彦(きし・なおひこ)
來住尚彦(きし・なおひこ)
名古屋芸術大学 学長
1985年早稲田大学理工学部卒業後、東京放送(現TBSホールディングス)入社。2015年に一般社団法人アート東京を設立し、「アートフェア東京」エグゼクティブ・プロデューサーを務めるなど、さまざまな企画、プロデュースを行う。24年より現職。

【來住】学生が海外の音楽学校へ留学すると日本人の演奏法はセンスが独特であるときっちり評価されます。だから各々が持っているセンスは素晴らしいと互いに認め合うことがダイバーシティにつながる。「あなたの存在自体が素晴らしいことである。できたからマルではない。できなかったからバツではない」――私が最高に好きな言葉です。あなたはあなたしかいないわけだから、多様性であるに決まっていると。

【杉山】本学は東アジア諸国と深い関係があります。学生が海外に行ってワークショップをすると驚くような経験をして帰ってくる。ダイバーシティとは多様な背景を持つ人と出会うことでもある。その機会をつくるのも大学の重要な役割だと思います。

【來住】アジアの若者も数多く本学に来てくれています。日本人のクリエーティブ能力はダントツです。だからこそアジアのみんながそれを学びに日本を訪れてくれる。今、日本は元気がないといわれますが、そう思っているのは日本人だけ。外から見たら日本、そして日本人はとても魅力的です。その創造性を若い世代に継承していく必要を感じますね。

【杉山】研究でも昔は日本独自の文化があってノーベル賞のような研究につながる面があった。ところが今はグローバル化で、ある意味、研究のやり方が同じで差がつきにくい。どうやって独自の成果をつくるかは、芸術と科学に共通する課題だと思います。世界中の情報が一緒になるほど、均一化していきますから。

【來住】学生に「アフリカの作家が描いた太陽を見てごらん」とよく話します。太陽の色が違う。やはりしっかり見て、しっかり感じて描かないと表現できないのです。デジタル化するとこれもまた均一化してしまう。太陽の色もピアノの演奏法も本当に見た人、聴いた人じゃないと分からない。本当に触れた人じゃないと分からないものが大切になってくる。

杉山 直(すぎやま・なおし)

杉山 直(すぎやま・なおし)
名古屋大学 総長
1984年早稲田大学理工学部物理学科卒業。広島大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程修了。京都大学大学院理学研究科助教授、東京大学数物連携宇宙研究機構主任研究員(兼任)などを務め、2022年より現職。

【杉山】よく分かります。アジアに行く、アフリカに行く。全然違うわけです。匂いや埃っぽいといったライブ感がすごく重要。そこにいる人たちの考えは、実際に触れなければ分からない。学生には短期間でいいからまず留学してほしい。とにかく行ってみれば何かを絶対に得るはず。そして面白いことに海外に行くと日本のことがよく見えてくる。

【來住】行けば何とかなる。音楽にはスコアという共通言語があるし、デザインも普遍的な言語ですから。

【杉山】まさにそうです。サイエンスでは数学が共通言語。我々の研究以外の一番のコンテンツは学生です。だから学生をどうプロデュースして価値をつけ、活躍させられるか。

【來住】やはり海外に出てグローバルの中で自分が、日本がどういうポジションなのかと、学生たちが分かる経験をさせる必要がある。その空気感の中で、自分自身で何かを感じ、しっかりつかんでほしい。

【杉山】だからこそチャレンジしてほしいと思います。入学式ではいつも「失敗しろ」と言っています。失敗から人間は学ぶと。成功体験なんかに安住してはいけない。

【來住】クリエーターは、一つの仕事を終えたらいったんゼロに戻してから次を始めるというのが私の考え方。1を10にする積み重ねも大事ですが、ゼロイチこそが面白い。しかし楽な場所にとどまっているとゼロに戻すことは絶対できません。楽な居場所では、けっして楽しさに満ちた人生をつくれないのです。

【杉山】ゼロイチでいうなら、我々はオリジナルな研究をクリエーティブと評します。そうした根源的な研究はめったにないので、それこそノーベル賞級です。学生にはそこを目指してほしい。ものすごく難しい一方で、まったく違うジャンルに飛び込んだ研究者が偉大な成果を上げることもあります。安住しているとどうしても1を10にする仕事にいってしまう。芸術もサイエンスもクリエーティビティーでは共通ですね。

【來住】重要なのは、「こういうふうにやりたい」というパッションだと思います。常に思い続けている人がとても輝く。それを応援する環境を大学はつくっていくべきです。それこそが我々の使命なのです。

【杉山】どう学生を育てていくか、学生がどう成長していくかは、我々の楽しみでもありますからね。

世界とつながる名古屋芸術大学
浜島理恵(はまじま・りえ)
浜島理恵(はまじま・りえ)
名古屋芸術大学
地域・社会連携部
演奏・ギャラリー事業チーム

「音楽」「美術・デザイン」など、芸術の分野において邦人作家による素晴らしい作品は多数存在します。一方で海外の作家による作品も素晴らしいものが多くそれらは互いに影響し合い、融合による新たな作品を生み出すこともあります。芸術とは垣根のないグローバルな影響力がたやすく融合する分野なのでしょう。そして、さまざまな国の作品を見聴きし、学び、表現していく過程において、その土地の言語や文化、芸術に対する思いなどを肌で感じることはとても貴重な体験となるはずです。

名古屋芸術大学では、学生の学びの舞台を世界にも求め、多くの高等教育機関と交流協定を締結し、積極的な留学支援を展開しています。また、外国人留学生の受け入れも同様であり、留学生にとって日本の芸術・文化の深奥を極める機会を積極的に提供するだけでなく、本学学生との異文化交流の場を設け、日本語・日本事情の理解にも触れる取り組みを多数実施しています。


パリ・エコール・ノルマル音楽院、デトモルト音楽大学

(左)パリ・エコール・ノルマル音楽院 世界的に著名な音楽家を多数輩出している名門の音楽院です。交流演奏会や公開講座を開催するなど、相互交流を深めています。本学音楽領域鍵盤楽器コース(ピアノ)では、本学に在学しながら同音楽院のディプロマを取得できる制度があります。/(右)デトモルト音楽大学 ドイツ北西部に位置する国立の名門音楽大学です。整えられた環境の中で、声楽、器楽、作曲、録音技術などを学ぶことができます。本学においてもこれまでにピアノや管楽器、録音を学ぶ留学生の派遣、受け入れを行っています。

芸術学部の留学生

共に学ぶことは、留学生、本学の学生それぞれにとって刺激となり、お互いの文化を知ることで視野が広がり、新しい発見につながっています。芸術学部の留学生には、留学中に制作した作品をキャンパス内のギャラリーで展示する機会があり、留学中の彼らの目標の一つになっています。