課長クラスで年間15人のみに、超厳選研修

役割給という実力主義の仕組みで社員を刺激し、全体のモチベーションを喚起する。これも人事戦略上の重要な柱に違いないが、さらにグローバル経済下での持続的成長を図るための不可欠な要件とされているのが優秀な経営人材の輩出である。現在、日本の大手企業でも一握りの社員を対象に経営者として鍛え上げる選抜研修制度を実施するところが増えているが、キヤノンも06年に「キヤノン・グローバル・マネジメント・インスティチュート」と呼ぶ経営幹部養成の研修施設を建設、経営者育成に着手している。

管理職の役割レベル、たとえば課長代理、課長、部長、所長クラスごとに各部門から推薦で候補者を選出し、同社の社長を委員長とする経営幹部育成委員会で最終的に研修対象者を決定する。対象者は課長クラスで毎年15人程度と全体の数%にすぎない。

2泊3日の合宿研修4回を含めて半年かけて経営全般に関わる学習を行う。

「講師は大学の先生やシンクタンクの研究員などの外部講師のほか、当社の役員が教えることもある。技術者であっても経理やマーケティング、人事管理など経営全般の学習のほか、プロジェクトごとの課題を設定し、グループ討議や成果発表など実践的なプログラムも用意されている」(原人事部長)

国内の社員を対象にした研修だけではない。日米欧、アジア地区からそれぞれ7人の経営幹部を選抜して実施するグローバル規模の研修も実施している。日本とスイスで定期的に開催し、講義はすべて英語で行われる。

「各地域のトップにキヤノンの価値観や考え方について共通の認識を持ってもらう大事な研修と位置づけている。またヨーロッパの各地域ごとの研修もあり、たとえば卒業すると、イギリスにいた社員がイタリアに赴任するなど配置転換も進みつつある」(原人事部長)

欧米はともかく、日本的風土では一握りの社員を経営幹部候補として選抜・育成することは、かつてはタブーとされた。平等意識が根ざす土壌において選抜されない社員の士気の低下を懸念したからである。おそらく過去のキヤノンも例外ではなかっただろう。しかし、役割給制度という人事制度のベースを築くことで、実力主義を浸透させ、その中から輩出される優秀な人材を経営幹部候補として育成することに踏み切った点にキヤノンのもう1つの「覚悟」を読み取ることができる。

ただし、終身雇用を柱とするキヤノン流日本的経営はまだ緒についたばかりである。役割給は現時点では日本人社員に限定された制度であるが「欧米は役割・職務給が多く理解されやすい。将来的には、たとえば世界の上位階層については同じ考え方で括ることもできるかもしれないという構想は持っている」(原人事部長)と指摘する。