「イギリス人が日本人と決定的に違うのは、仕事以外に自分の時間を持っていることと、社会貢献をするという意識が染み付いていることです。この2つが老後のあり方を左右すると思います。たくさんの自由時間のなかで、夫も妻も趣味を構築していきますが、リタイアしたあとにその趣味を深めていくのです」

井形慶子さんの持論である。たとえば、次のようなケースが典型的だ。

「この前、1人暮らしのおばあちゃんを訪ねたときに、びっくりしたことがあるんです。もう80代の方ですが、部屋の片隅の机を指差して『見て見て。ついに25万円で買ったのよ』というんです」

よく見ると、机と見えたのは最新式のミシンだった。なぜ高齢の女性がミシンを新調したのか。

「その人は、ミシンを使ってバッグやポーチを手づくりしては、北欧の孤児院の子供たちに毎年クリスマス・プレゼントとして贈っているそうなんです。夫を亡くして1人暮らしになってからもずっと続けてきた。そのことが生きがいなんだというんです。つくづくお金のかけどころが違うと思いました。このミシンが生きがいと社会貢献につながっているのですから」

この老婦人が特別なのではない。イギリスの高齢者は「忙しい」と口にする人が多いという。

イギリスはウオーキング大国といわれ、天候にかかわらず散歩や外出を好む人がとにかく多い。そのため「リタイア組の夫婦がウオーキングシューズやウオーキングステッキ、ゴアテックス製のジャケットといった歩くための装備をそろえるのは珍しくありません」と井形さん。

夜間のアダルトスクール(社会人学級)が充実しているので、パソコンや会計などのほか、ダンスやブリッジを安い料金で学ぶこともできる。もちろん現役世代も通っているが、真剣に学ぶ高齢者の姿は多いという。だから「忙しい」。

イギリス人の趣味は、現金収入を得る道にもつながっている。井形さんはいう。

「彼らはリタイアしたあとも、家の一間に下宿人を置くとか、趣味を生かして毛糸の人形やジャムをつくってマーケットで売るなどして現金収入を得ています。趣味といっても、10代からの年季の入ったものだから売り物になるのです。日本のように、リタイアしてから資格を取るというのとは違いますよね」

考えさせられる話である。

作家 井形慶子 
長崎県生まれ。28歳で出版社を設立し、英国生活情報誌「ミスター・パートナー」を創刊。90回以上の渡英経験を生かした著書多数。近著に『イギリス式シンプルライフ月収15万円で暮らす豊かな手引き』『突撃!ロンドンに家を買う』。