「黒田氏はオックスフォード大学経済学研究科修士課程を修了、役人としては珍しくオーソドックスな経済学をしっかり勉強している。マクロ経済や国際金融に関する著書が何冊もあるが、現役の財務官僚では非常に珍しい。性格的にも快活で気さく。官僚臭さもなく、海外の知己も多い」(財務省OB)

新たに日銀総裁に就任する黒田東彦(はるひこ)元財務省財務官の評判が上々だ。

財務官は国内では事務次官に次ぐ財務省ナンバーツーだが、対外的には財務省を代表する立場である。

「今回の日銀総裁人事で、首相官邸は英語を話せ、経済学の博士号かそれに準ずる資格があることを重視した。これまで主要国の中央銀行トップのうち、博士号もなく英語も満足に話せないのは日本と中国だけと言われてきて、最近、中国が英語が堪能な人物に交代。日本だけが取り残されていた」(同)

そこで2つの条件を満たす黒田氏に白羽の矢が立ったわけだ。黒田氏は財務省退官後、小泉内閣の内閣官房参与になり、当時内閣官房副長官だった安倍氏と懇意になった。「安倍氏は外交通だが財務省人脈は細い。苦手の経済をわかりやすく説明してくれる黒田氏は安倍氏にとって欠かせない人物で、安倍氏が黒田氏を一本釣りした」(安倍氏周辺)という。

一方、今回の日銀総裁人事で、古巣の財務省は武藤敏郎元事務次官(前日銀副総裁)を強力に後押ししていた。このため財務省内からは、“傍流”の黒田氏への冷ややかな声も聞こえてくる。

財務省幹部が声をひそめて語る。

「黒田氏は強運というか、タナボタというか。退官後、アジア開発銀行総裁に就任したが、このポストは渡辺博史財務官の就任が見込まれていた。ところが、日銀副総裁就任が視野に入っていた渡辺氏が辞退。黒田氏にお鉢が回ってきたと聞いています。また、黒田氏はアジ銀総裁として活躍したと伝えられていますが、実際のところは前任者の千野忠男総裁の貢献が大だった。千野氏が貧困国などへの投融資の資金集めに尽力したため、黒田氏の就任時、アジ銀は潤沢な資金を有し、黒田氏は苦労せずに済んだのです」

今回も「安倍政権の誕生がなければ、黒田日銀総裁の誕生はなかった」(自民党幹部)と言われてはいるが、そんな運のよさも実力のうち。黒田氏の活躍に期待したい。