Q プロは「売るべき」商品を売ることが大切とのことですが、私の部署では利益率が高いという理由で、顧客の期待度を満足させづらい商品を売るよう推奨されています。長い目で見れば、その商品を売ることは好ましくないように思うのですが、その商品を売らないと会議で上司に叱責されてしまいます。顧客の期待度の話をしても上長たちからの理解も得られず悩んでいます。部署の方針に反して自分のいいと思う商品を売るべきか、部署の方針に従うべきか、どのようにお考えでしょうか。(金融、女性、42歳、入社12年目)


A  こんなことを言うとがっかりさせてしまうかもしれませんが、部署の方針に従うべきです。なぜなら利益に対する責任は、あなたではなく上司が負っているからです。

組織に従属する以上は与えられた仕事の中にしか自分の決定権はありません。中には理不尽なこともあるでしょうが、その環境下で成果を出していくことでしかあなたの社内での発言権や選択肢が増えていくことはありません。

あなたが今置かれている環境は明らかに危機ではなく機会です。この機会を放棄してしまったら、その環境下での将来の活躍はおろか、そこからの学びまで同時に断たれてしまうことになります。

この場面では、どうにかして上司に自分の主張を通そうと努力することよりも、むしろ、いかにすれば上司があなたの主張を聞いておきたいと思うようになるかということを考えていくほうが賢明なのではないでしょうか。

また、その商品がなぜ顧客を満足させにくいかはわかりませんが、もし本当にそれが粗悪な商品だったり値段が価値に対して著しく高すぎたりして、顧客を満足させられない商品なのであれば、誰も買わなくなるので自然と消えていきます。よほど詐欺まがいの商法でもなければ、部署の方針に従うべきでしょう。

「顧客の期待度を満足させづらい商品」ということですが、もし売れているのが事実であれば立派に顧客の期待に応えているということになります。それに、もし本当に価値のない商品ならディスカウントしなければ売れませんから、値段がどんどん下がっていくでしょう。

そうなればむしろお得な商品になるかもしれない。まったく顧客を満足させられない商品が生き残るほど市場の評価は甘くありません。

それに、お話を聞く限りでは、その商品はむしろ先見性があるような気がします。「利益率が高い商品だから売れと言われている」そうですが、基本的に利益率が高い商品というものは競合がまだ持っていない商品であり、ほかより先に売り始めたことによって先行者利益が見込める代替のきかない商品であることが多いものです。

これは想像ですが、もしかしたらその商品は、あなたにとって売るのが難しい商品なのではないでしょうか。それを自分で認めたくないあまり、もっともな理由をつけている可能性も否定できないように思います。

つまりAという商品は売りやすいけれど、Bという商品は売るのに苦労する。それなのに上司はBを売れという。そこで「なんでですか?」と聞くと、「利益率が高いし、戦略商品だからだよ」と言われた、ということかもしれない。

その商品は、あなた以外のメンバーも売るのに苦戦しているのでしょうか? ほかの人がちゃんと売っているのに自分だけが売っていないとしたら、商品を批判する以前に自分のセールスのやり方を見直したほうがいいかもしれない。

20世紀の知の巨人と言われるドラッカー氏は、「マーケティングの理想はセールスを不要にすることである」 という名言を遺しています。

つまり、「売れる」商品はあなたの努力とは無縁の世界でもマーケティング力で売れていきますが、「売るべき」商品はマーケティングが今どのように機能していようともセールスの後押しが必要であるとの経営判断がなされた結果なのです。

経営者の立場になって考えてみてください。セールスの後押しが必要であると判断して社費を投じて営業部隊をつくっているのですよ。社内が注目していないわけがありません。今のあなたは、そんな注目が集まる環境におられるのではないでしょうか。

それほど強く売りたくないと思っている、あるいは苦手意識を持っている商品を売る努力をしてみて、もしそれを上手に売る手法を見つけたら、あなたにとって、もう鬼に金棒です。挑戦してみる価値は十分あると思いますよ。

※本連載は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A』に掲載されています(一部除く)

(撮影=尾関裕士)