衣料品の「しまむら」、ラーメン店の「ハイデイ日高」、スーパーの「ヤオコー」……。これら好業績企業の共通点は、埼玉で生まれたことです。埼玉企業はなぜ元気か。実は、きちんとした裏付け理論があります。

その筆頭にあげられるのが、「半径80キロメートル理論」です。東京から80キロのエリアには、ほかにも、国内最大規模のスーパー「マルエツ」(さいたま市で創業)、同「ベイシア」(群馬県前橋市)、ホームセンター「カインズホーム」(群馬県高崎市)など、成長著しい企業が群雄割拠しています。このエリアは、都内に勤務する人々のベッドタウンで、人口が多く、マーケットが大きいからです。

「物流の要理論」も、躍進の背景にあります。埼玉には、もともと伝統的な交易都市が多いのですが、現在では関越・上信越・東北・常磐の各高速自動車道に直結し、外環道や圏央道も延びています。加えて新幹線も走る。北へ南へ、これほど利便性よく全国展開しやすいロケーションはほかにありません。

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絶好調企業の出発点/右肩上がりの営業利益

「中途半端な田舎理論」というのも無視できません。都会でもなく、ド田舎でもない。そこで醸成されたセンスは、全国に通じるものです。その代表格が、「しまむら」のファッションでしょう。横浜発のハイセンスなものなら都市部には支持されても、田舎町では受け入れられません。時にダサいなどと揶揄される埼玉ですが、ここが日本の縮図であり標準なのです。埼玉で成功すれば、全国で成功できるでしょう。

また、土地が安いため、低コスト経営が可能です。埼玉企業は、人口の少ない地元の小さな町でも、最大公約数の客に愛され、確実に収益が見込めるミニマムなビジネスモデルを構築しました。それをより人口が多い都心店舗で積極展開していきます。大宮で力をつけた「ハイデイ日高」は390円の中華そばを代表メニューに低価格路線をひっさげて、1994年に新宿歌舞伎町に出店し、大ブレークしました。

最後にあげる理論は、堅実で我慢強い埼玉の県民気質に関連したものです。名付けて「ほどほど理論」。ガツガツせずに、10%そこそこの成長を長期間続けていることが、埼玉企業の特徴です。「ヤオコー」「しまむら」の経営トップは、業績を無理に伸ばそうとしませんでした。普通は会社を大きくしたくなるものですが、それでは質量ともに人材が追いつきません。そこでガマンできるかがポイントなのです。

帝国データバンクによる出身地別の社長輩出数では、埼玉は全国で最下位。思えば、「カリスマ社長」的存在もいません。しかし大出世しなくても、彼らは総じて協調性が高く、ソツがない。中間管理職にぴったりです。地味な存在ながら、部課長の活躍も埼玉企業の躍進の下支えとなっているのです。

※すべて雑誌掲載当時

法政大学経営大学院教授 小川孔輔
1951年、秋田県生まれ。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。法政大学経営学部教授を経て現職。マーケティング、マーケティング・リサーチを担当。著書に『しまむらとヤオコー 小さな町が生んだ2大小売チェーン』などがある。
(構成=大塚常好 撮影=永井 浩)
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