スポンサー、イベント収入、資産もすべて注ぎ込んだが…

それだけの準備をしようとすると、費用も決して小さいものではない。生活費も練習代もかかるし、仕事や他の試合があれば遠征費用もかかる。

プロテストに挑戦する別の女子選手は、「夏生ちゃん、よくお金が続きますよね。大きなスポンサーがついてたりするのかな」と話していた。同じ境遇であるだけに、費用がどれだけかかるかもよくわかるのだろう。

しかし、残念ながらそれほど大きな支援はどこにも存在しなかった。幡野は数社のスポンサーとイベントなどの仕事をやりくりしながら、自分で費用を捻出している。幸い、冒頭のホールインワン賞金もあった。自分の資産も注ぎ込んで、プロテストのために自分がやれることを全て準備して備えた。

しかし、そこまでしても。退路を断って、自分の情熱とリソースを全て費やしても、最終プロテストに合格することはできなかった。

2023年最終プロテストにおける幡野は、4日間2オーバーで61位。上手くはいかなかったかもしれないが、決して悪いスコアではない。十数年前ならゆうゆう通過する可能性のある成績だ。

この年の通過ラインは、5アンダー。天候が良かったこともあり、事前の関係者の予想よりもかなり上振れしたスコアになった。

プレー中の幡野選手
筆者撮影

明るいプレースタイルの裏で血を流し続けている

トップ通過の清本美波は2005年生の18歳。スコアは17アンダーだった。ここ数年で、女子選手のレベルが大きく上がり、そして若い選手の勢いを感じるスコアだった。幡野もかつてそうだったように、若さゆえの自信で突っ走れる選手たちは強い。

「今の私は、ゴルフの怖さを知ってしまってるので。自分でもイケイケでやれていたころの感覚が、イップスになってから本当になくなってしまって。怖い、という気持ちが出てくると、ゴルフってこんなに変わっちゃうんだと感じてます。若い子たちは、そういうのは知らないから、勢いは感じますよね」

冒頭では、幡野が明るいプレースタイルでギャラリーを楽しませるエンターテイナーだと書いた。コミュニケーションも実に巧みで、頭の良さを感じる瞬間も多い。誤解を恐れずに言えば、とてもプロ向きの選手だと感じる。

ツアーを離れてから数年が経っても、未だに多くのファンを持ち、注目される存在であるのも彼女のそんなパーソナリティからきている。

しかし、プロテストに何度も挑戦しながら、合格に手が届きかけては敗北し、スイングイップスによる選手生命を脅かすほどの不調にあえぎ、虎の子の財産さえも底をつきかけている。表層の天真爛漫な姿とは裏腹に、その裏では血が流れ続け、内出血の激しい痛みでその心は深く傷ついているように見える。