「みんなから“六本木の帝王”と呼ばれたものさ」

伸びる一方の需要に合わせて、レストランの本店を三百平方メートルほど拡張し、しばらくしてまた三百平方メートルほど拡張した。駐車場を設け、屋上にソーセージのミニ工場を増設した。条例違反だが、かまうことはない。新しいシェフを雇い、スタッフを増やし、六本木じゅうに支店を設けた。横田にピザの冷凍工場を建設し、四トントラック数台で製品をせっせと配達した。

使い道に困るほどの猛スピードで、金が舞い込んでくる。

ザペッティは毎晩、赤坂や六本木の歓楽街へ、時間の許すかぎり通った。美女を抱かずに眠った夜は一度もない。ときには二人いっぺんに抱いて寝た。ナイトクラブのバーテンダーたちは、好色なガイジンの旦那と、取り巻きの女たちをよく知っているから、彼が店にやってくるたびに、新顔のホステスを差し向けた。

「みんなから“六本木の帝王”と呼ばれたものさ」

数年後、ザペッティは自慢した。

「そのとおり。おれは日本一リッチなアメリカ人になった。とびきりの美女をいつも連れていたから、道を歩いてるとみんなが振り返ったもんだ」

バーのカウンターに並んだグラスと酒の瓶
写真=iStock.com/Nikada
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ニセの米軍IDカード、円の偽造債券、盗品の毛皮コート…

“東京のマフィア・ボス”ザペッティのもとには、ほかにもいろいろな金もうけの話が舞い込んできた。日本の米国商工会議所の会合ではまともに取りあげられないような、あやしげなビジネスばかりだ。

奇妙な要請や商談が、つぎつぎにザペッティのもとへ寄せられてくる。

アメリカ人たちが、ニセの米軍IDカード、闇ドル、円の偽造債券、盗品の毛皮コートなどを売りつけにきた。密輸米もあった。これは日本ではかなり需要が高かった。米穀産業に大きく依存している自民党が、厳密な価格規制をしているからだ。

ナイトクラブのホステスたちは、今後の商品価格、金利の変更などのデータをひっさげ、“国際的な極秘ビジネス情報”の買い手を求めてやってきた。自分を置き去りにした外国人の恋人を探してほしい、という日本人妊婦からの依頼もあった。

横浜港に停泊中の船の乗組員は、「黄金の三角地帯(東南アジアの生アヘンの生産地帯)」から持ち込んだ商品を、こっそり売りさばくためにやってきた。元マフィアの殺し屋は、コカインを日本の大衆に紹介したがった。

ザペッティは一部を引き受けたが、トラブルや危険性をはらんだものは断った。残りは、自分よりふさわしい「仕事仲間」に紹介した。