相手と対等の知識なんて必要ない

以前、某大手銀行の新人研修で「雑談」について講義したことがあります。

視聴覚室が明るく照らされている
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若手社員の悩みは、「自分の祖父母のような年上のお客さまと、どう話をしていいのかわからない」というものでした。

「いつもどうしているの?」と聞くと、毎日、新聞やビジネス雑誌を読んで知識を蓄えているとのこと。

もちろん、それは勉強になるのでいいのかもしれません。

しかし、いくらそうした情報を仕入れたとしても、何十歳も年上の人と対等の会話などできるわけがないのも事実です。

「銀行マンたるもの、お客さまよりものごとを知っていないとダメだ」と思い込んでいるのでしょう。

そこで、私はその研修であることを伝えました。

すると、研修が終わった頃には皆、晴れやかでスッキリとした表情になったのです。

伝えたのは、2つだけです。

まず、年配の人と対等に話をしようとしないこと。

やろうとしてもできないことを努力しても時間のムダ。新聞を読むのが好きでしかたがないのならともかく、ムリに知識を頭に入れようとしなくてもいい。

過去の話を聞いて、教えてもらえばいい

もう1つは、「教えてもらう雑談」を心がけることです。

そもそも年齢も社会人としても大先輩なのだから、教わるべきことはたくさんあるはず。相手の過去の話を聞いて、教えてもらえばいい。孫のような営業に教えるという行為は、とても気持ちがいいし、どんどん教えたくなるもの。当然、愛着もわいてくる。かわいがられる存在になればいい。

そんなことを伝えました。

【営業】「○○さんは、以前どんな仕事をされていたんですか?」
【お客さま】「食品関係の商社に30年勤めていたんだ」
【営業】「そうだったんですね。営業ですか?」
【お客さま】「バリバリの営業だったよ」
【営業】「私はまだ営業を始めたばかりなんですが、なかなか難しくて」
【お客さま】「私も新人の頃は全然売れなかったよ。でも、3年目でトップクラスになってからは、ずっと上位にいたかな」
【営業】「すごいですね。あの、これからときどきお伺いしてもいいですか? 営業を教えてください!」
【お客さま】「ああいいよ。いつでも来なさい」

こうして親しくなっていけば、ムリに知識をつめ込まなくても、自然に相手との関係も深まることがおわかりいただけるでしょう。