自走する「飛行機能力」はまるでなしの“優秀”な人間

また、知識・情報を指示通りに詰め込むだけではなく、それらを脳内で組み合わせて独自の神経回路を作成することが前頭葉の働き、すなわち思考なのである。その重要性については、本書冒頭の「グライダー」の章でこう述べられている。

「人間には、グライダー能力と飛行機能力とがある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見するのが後者である。両者はひとりの人間の中に同居している。グライダー能力をまったく欠いていては、基本的知識すら習得できない。何も知らないで、独力で飛ぼうとすれば、どんな事故になるかわからない。

しかし、現実には、グライダー能力が圧倒的で、飛行機能力はまるでなし、という“優秀な”人間がたくさんいることもたしかで、しかも、そういう人も“翔べる”という評価を受けているのである。(中略)

指導者がいて、目標がはっきりしているところではグライダー能力が高く評価されるけれども、新しい文化の創造には飛行機能力が不可欠である。」(p.11-13より)

だから現代において必要なのは自走する「飛行機能力」なのであり、親が先回りして引っ張るグライダーでは絶対にいけないのだ。

さらに、前頭葉においては膨大な神経回路を作成した上で、重要性と必要性に応じてそれらを整理整頓する作業が行われる。まさに本書の「整理」で書かれている、「すてる・忘れる」ことの重要性である。

人間の頭は倉庫として、新しいことを考え出す工場であるべき

「コンピューターの出現、普及にともなって、人間の頭を倉庫として使うことに、疑問がわいてきた。コンピューター人間をこしらえていたのでは、本もののコンピューターにかなうわけがない。

そこでようやく創造的人間ということが問題になってきた。コンピューターのできないことをしなくては、というのである。

人間の頭はこれからも、一部は倉庫の役をはたし続けなくてはならないだろうが、それだけではいけない。新しいことを考え出す工場でなくてはならない。倉庫なら、入れたものを紛失しないようにしておけばいいが、ものを作り出すには、そういう保存保管の能力だけではしかたがない。

だいいち、工場にやたらなものが入っていては作業能率が悪い。よけいなものは処分して広々としたスペースをとる必要がある。それかと言って、すべてのものをすててしまっては仕事にならない。整理が大事になる。

倉庫にだって整理は欠かせないが、それはあるものを順序よく並べる整理である。それに対して、工場内の整理は、作業のじゃまになるものをとり除く整理である。

この工場の整理に当ることをするのが、忘却である。人間の頭を倉庫として見れば、危険視される忘却だが、工場として能率をよくしようと思えば、どんどん忘れてやらなくてはいけない。(中略)

これまで、多くの人はこんなことは考えたこともないから、さあ、忘れてみよ、と言われても、さっさと忘れられるわけがない。しかし、入るものがあれば、出るものがなくてはならない。入れるだけで、出さなくては、爆発してしまう。」(p.115-119より)

自分の子どもの脳に、堅牢で美しく、多少の攻めにあっても崩されない自立した「石垣」を構築したいと願う親であるならば、これは必読の書である、と私は強くお薦めしたい。

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