死んだあとはみんな“いい顔”に

これまでたくさんの患者さんを看取ってきました。病院で患者さんが亡くなられたときには、その顔をじっとみつめて見送ります。すると、ある瞬間からふっと“いい顔”になるのです。その表情は、なんともいえない穏やかできれいな顔です。生きていると多かれ少なかれよこしまな心があるものです。亡くなるとそれが落っこちるのではないか、だからあんないい顔になるんだろう、そんなふうに思っています。

日々、命のエネルギーを高めて(修行して)、死後の世界に飛び込む(故郷に帰る)のですから、穏やかで安らかな顔になるのもよくわかります。

このいい顔になるまでの時間は人によって違います。数分でいい顔になる患者さんもいれば、1時間後など時間がかかる患者さんもいます。

時間がかかるのは副作用の強い抗がん剤など、苦しい治療を受けて亡くなった患者さんです。心身への負担が大きい治療は切れ味が鋭いのですが、苦しさを伴います。そのなかで亡くなった患者さんはいい顔をしていません。ただ、しばらく時間がたつと、すっと苦しみが消えて、穏やかないい顔になります。

いまの楽しみは彼(あ)の世で昔なじみと飲むこと

私の年になると、多くの親しい人たちが彼の世に行ってしまいました。夜、一人で酒盃しゅはいを傾けていると、先に逝った人たちが語りかけてきます。

肉親や妻はもちろん、苦楽をともにした総婦長、幼なじみや学生時代の友人があらわれて、「早くこっちに来いよ、また大いに飲もう」と誘います。いずれ遠くない将来、私も彼の世へと向かうでしょう。

帯津良一『にこにこマンガ88歳現役医師のときめいて生きる力』(主婦の友社)
帯津良一『にこにこマンガ88歳現役医師のときめいて生きる力』(主婦の友社)

死んだら真っ先に会いたい人の一人が、日本に太極拳を広めた武術家・楊名時先生です。此この世で楊名時先生と一杯やるのは、私にとって至福の時間でした。彼の世で再びお会いして、またあの楽しいお酒が飲めると思うと、死ぬのが楽しみになってくるのです。

死はつらく苦しいもの、親しい人との別れなどマイナスのイメージがありますが、そうではなくてプラスにとらえましょう。そのためには、死後の世界をどう考えるかも重要になってきます。死は終わりではなく、旅立ちです。生きているうちから死後の世界について考えましょう。先に彼の世に行ってしまった人たちと、心のなかで交流を深めることでも、死に対するイメージが変わってくるのではないでしょうか。

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