めまいや頭痛を引き起こすほどの傾き

傾き物件319棟のうち、著しく傾いた65棟は海岸沿いに立つ。浜辺から小型ドローンを飛ばし、可能な限り水平に撮影すると、ビルの不規則な傾きがはっきりと確認できた。見ているだけで不安を覚えるほどだ。

左側への傾きが確認できる中央のマンション
筆者撮影
左側への傾きが確認できる中央のマンション
2度以上右側に傾いた中央のビル
筆者撮影
2度以上右側に傾いた中央のビル。皮肉にもビルの名称は「ミラージェン(幻想)」

日本建築学会のホームページに掲載された「建物の傾きによる健康障害」によると、0.29度で「傾斜を感じる」、0.46度で「傾斜に対して強い意識、苦情の多発」、1.3度で「牽引けんいん感、ふらふら感、浮動感などの自覚症状が見られる」、2~3度で「めまい、頭痛、はきけ、食欲不振などの比較的重い症状」と紹介されている。

モニター上で測ると、多くの建物が2度以上傾いている。

めまいや頭痛を引き起こすほどの傾きの中、一体住民はどのように“普通の生活”を送っているのか。傾きマンションの一つ「エクセルシオール」の呼び鈴を鳴らした。

3棟いずれも傾いたビル群
筆者撮影
3棟いずれも傾いたビル群。

水平線が水平に見えない

エクセルシオールの代表者に伴われ、10階に到達したエレベーターから足を踏み出すと、一瞬で著しい傾きを体感できた。マンションのエントランスで傾きを感じなかったのは、1階には床を水平にする修繕が施されていたからだった。

今回私が訪れたのは、定年退職した夫婦が暮らす一室。フレンドリーに迎えてくれた夫のジョゼ・カルロス・ペリンさん(77)は、「今日は曇っているけど、いい眺めだろ?」と早速、自慢のオーシャンビューをベランダのガラスドアを開放して見せてくれた。

「水平線と手すりを見比べてごらん」とペリンさんに促されて見てみると、なるほど、その角度の差は身体で感じている傾きを明瞭に示していた。

オーシャンビューのベランダでペリン夫妻
筆者撮影
オーシャンビューのベランダでペリン夫妻。後方のマンションも写真右側に傾いている
大西洋の水平線にカメラの水準器を合わせて撮ったベランダの写真
筆者撮影
大西洋の水平線にカメラの水準器を合わせて撮ったベランダの写真

「他にも面白いものを見せてあげよう」とペリンさんはスーパーボールを廊下の床面で手放した。すると、球体は重力に従い、加速して転がった。

まるでからくり屋敷の種明かしをするかのようなペリンさん
筆者撮影
まるでからくり屋敷の種明かしをするかのようなペリンさん