なぜコロナ禍にTitleで本を買ったのか

こう考えてきて、ひとつの疑問が湧いた。

辻山は「Titleを応援したいと思ってくれた人たちがウェブショップで購入してくれた」と言う。そして、応援という言葉には、緊急時にTitleの経営を案じる同情票が集まった、そんなニュアンスが含まれる。

だが、応援というよりも、むしろ、誰もが経験したことのない非常時に他のどの店でもなくTitleから本を買いたいという心の動きが、買う側の方に生じたのではないだろうか。

三宅玲子『本屋のない人生なんて』(光文社)
三宅玲子『本屋のない人生なんて』(光文社)

Titleに本を注文し、Titleから本が届く。その行為を客の方が必要としていたのではなかったか。辻山の言葉を聞きながら私は思った。

辻山が毎朝送り出す端正な140字の紹介文には、読む人の心を整える作用がある。そして本を読む人たちが、日頃から自分の心を整える助けとなっている店から本を買いたいと願う、それは、考えてみれば当然の思いだろう。

得意なものはと聞かれれば、本を紹介することだと答える。同じことを繰り返して研ぎ澄ましていく自身の本を売る仕事を職人のようなものだと辻山は言う。その辻山にはどこかゆったりとした前向きさが感じられる。それは、人を支えるという本の力を知っているからなのだろう。本を紹介することに賭ける辻山の静かな明るさは、本を求める人を励ましてもいる。

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