すぐに結果が出ないと投げ出してしまう

楽天グループの海外展開にも、その傾向がよくあらわれている。楽天グループは、社内公用語を英語にすると発表した10年くらい前から、海外展開を加速させた。当初は世界各国・地域でのビジネス展開を意気込んでおり、有望なマーケットを目ざとく見つけ出して事業を始めた。しかし、すぐに結果が出ないと投げ出してしまう三木谷会長兼社長の短期思考がゆえに、いずれの海外事業も尻すぼみになっている。

10年に中国大手IT企業のバイドゥと手を組んで開設した中国版楽天市場「楽酷天らくてん」は、2年後の12年に閉鎖。08年にはECの欧州市場でアマゾンに対抗すべく、欧州拠点としてルクセンブルクに楽天ヨーロッパを置いた。しかし、16年を境に欧州各国からの撤退と縮小が相次ぎ、現在ではフランスでわずかにEC事業を展開しているのみだ。楽天グループの現地法人で今も頑張っているのは台湾くらいで、あとはもう積極的な海外投資をしていない。海外事業の勢いは、最初だけだった。

たとえリーダーが偏ったタイプでも、その下の人たちの足腰が強ければ、事業を回していける。しかし、楽天グループは社員たちも三木谷会長兼社長に似たタイプの寄せ集めで、チームとして結束できておらず、機能不全だ。

日用品や弁当などの宅配システムを九州で展開している、エブリデイ・ドット・コムという会社がある。私が同社のオーナーをしていた十数年前、楽天から業務提携の打診があり、流通や販売など3つの組織の長が来社して打ち合わせをすることになった。朝9時に私がオフィスで出迎えると、3人はその場でお互いに名刺交換を始めた。同じグループでも交流がないのだ。

さらに驚いたのはその後だ。打ち合わせはそれなりに盛り上がり、3人は意気いき軒昂けんこうとして帰っていった。しかしその後、連絡はなかった。実務をフォローする人が誰もいないし、もともと起案した人は既に辞めてしまっていた。

別件で楽天グループ本社に行ったときも、興味深い体験をした。打ち合わせをしていると、突然モニターに三木谷会長兼社長が映り、「今週の進捗は」と英語で語り始めた。社員は最初の1~2分こそ聞いていたが、そのうち自分の仕事に戻り始めた。英語ではわからない、という人を置きざりにしており、トップとしては求心力が低すぎる。

楽天グループには、創業期から三木谷会長兼社長と苦楽を共にしてきた社員がほとんど残っていない。幹部は高い給料で引っ張ってきた高スペック人材が中心だ。彼らは、嫌なら別の会社に転職すればいいと考えていて忠誠心が低い。三木谷会長兼社長に負けず劣らず短期志向なので、足腰も頼りない。

楽天グループは、いわば細い鉛筆を立てて束ねたような組織だ。三木谷会長兼社長が関心を持って見ているうちはまとまって立っているが、手を放すとバラバラと倒れる。これでは事業を太く長く育てていくことは難しい。