生活習慣病を防ぐためにはどうすればいいのか。北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟さんは「2017年以降の研究では、脂質やコレステロールを制限しても意味がないどころか、健康リスクを高めることがわかっている」という――。

※本稿は、山田悟『糖質疲労』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

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効果的なのは「糖質制限+カロリーと脂質は無制限」

太らないため、そして生活習慣病を予防するため、とにかく油(脂質)を目の敵にして、なるべく食べないようにしている人がいます。

しかし、それは古い情報にしばられているのです。「脂質をとりすぎると体に悪い」という概念は、1950~1970年代に提唱されました。脂質をたくさん摂取している国では心臓病が多かったという研究結果が報告されたからです。

余分な脂質は血液で全身をめぐり、脂質異常症になり、脂肪細胞に吸収されれば肥満になり、血管にこびりつけば動脈硬化症を引き起こし、最終的には心筋梗塞や脳卒中など致死的な病気の原因になる、確かに、漫画的で理解しやすい概念です。

しかし、脂質を減らし、しかもカロリー制限も加えた食べ方で、実際に体重減量に効果的かどうかを検証した3つのグループの無作為比較試験では、この食べ方(脂質制限+カロリー制限)の減量効果が一番弱く、それよりもカロリー制限かつ脂質積極摂取のほうがまし。

それよりもゆるやかな糖質制限食が一番体重減量効果を示しました(ほぼロカボと同様の糖質摂取:1日120g)。この糖質制限食のグループは、カロリー無制限、脂質無制限、たんぱく質無制限でした。

「脂質をとりすぎると体に悪い」は20世紀の話

この研究こそ、私がロカボを提唱する契機となった論文なのですが、どうしてこのような研究結果になったのか、この研究が発表された2008年当時は誰も説明ができませんでした。

しかし、2013年頃までに、その機序を説明するいくつかの研究結果が報告されました。すなわち、脂質を控えるとカロリー消費が1日300kcalも低下してしまうことや[16]、たんぱく質や脂質を摂取すると満腹感を作るホルモンの数値が高く、長く分泌され、空腹感を感じさせるホルモンの数値が低く、長く抑制されることなどが報告されたのです。

油脂を控える食事法は、それまで50年近く、健康によいと信じられてきましたが、実は何の意味もない食事法だったということが2008年にはっきりとしたのです。

残念ながら、この概念を(こうした脂質制限食の意義を検証した無作為比較試験の結果を)きちんと把握できている医療従事者があまり多くありません。ですので、いまも、医療従事者(医師や管理栄養士)でありながら、脂質制限を推奨している人たちがいます。どうぞ20世紀の栄養学に惑わされないでください。