クレーム対応は難しい。横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一さんは「クレームには『受けて立つな、横に立て』と教員に伝えている。説得できないと思うのではなく、相手の立場を理解することが大切なのだ」という――。

※本稿は、工藤勇一『校長の力 学校が変わらない理由、変わる秘訣』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

教員たちは保護者を怖がって臆病になっている

学校のステークホルダーといえば、教育委員会や議会、あるいは民間企業よりも大切な存在、保護者を取り上げないわけにはいきません。保護者とのコミュニケーションの取り方は、校長にとって必須のスキルです。

最近、クレームを訴えてくる保護者が多いので、教員たちは保護者を怖がって臆病になっているように思います。麹町中でもその風潮を感じましたが、日本中が同様だと思います。保護者から言いたい放題に責められて、対する教員はサービスで答えれば答えるほど、また相手の要求がエスカレートする。そして結局は当事者意識を忘れ、人のせいにする子どもたちが育つ……なんて悪循環に陥っているのです。

しかし、本書(『校長の力』)で繰り返し述べているように、みんなを当事者にするのが教育です。その最上位目標を頭では理解していても、やはりスキルと言葉を持っていないと、対応に困るのも事実です。

入学式で必ず伝える3つのこと

僕は横浜創英中学の入学式では必ず保護者に3つのことを伝えています。まずは教育目標です。「自律・対話・創造」という教育目標のうちの「自律」と「対話」の2つについてお話をします。

佐賀県立公園の桜
写真=iStock.com/Takatoshi
※写真はイメージです

「自律」を一言で言えば、不透明な時代においてはますます自分で考えて行動する力が大事だということです。

ここにA君とB君がいて、A君は親や先生の言うことをよく聞く、いわゆる素直な子。勉強も言われたことをきちんとやって、成績もいい。でも自分で考えるわけではなく、指示待ちタイプ。対するB君は親の言うことを聞かず、先生の言うことも聞かない。勉強もやる気がない、成績も今ひとつ。でも、この子は自分で決めたことは自分でできる子に育っている。横浜創英はB君を育てる学校です。主体性を失った子どもが主体性を取り戻すリハビリには、それなりの時間がかかります。覚悟してください、と話します。

もうひとつの「対話」は、みんな違っていいのだから、当然、トラブルも起きるということです。

1年生のうちは、頻繁に喧嘩が起こりますとも保護者に伝えます。もちろん放任することはありませんし、必ず丁寧に間に入り、解決する当事者は子どもたちであることを教えていく、そういう学校です、と。あるいは「発達に特性があってパニックになって暴れる子も中にはいます」と伝えると、たまに保護者の中に「その子を排除してくれ」という人がいるのです。「別教室に移せませんか」と言ってきたりするのですが、「うちは一切、そういうことは行いません。絶対に誰かを排除することはありません。でもそれをちゃんと子どもたち同士が自分たちで解決できるようになります。そこも覚悟してきてくださいね」と説明しているのです。