パリ五輪のマラソン枠は男女とも残り1。3月3日に開催される東京マラソンはその選考も兼ねている。スポーツライターの酒井政人さんは「日本人の誰が活躍するかだけでなく、どのブランドのシューズを履く選手が上位にくるかにも注目が集まっている。王者ナイキの後塵を拝してきた、アシックス、アディダスはここへきて逆襲してきており、会社の業績に大きく影響するトップ選手の走りから目を離せないという――。

厚底王者ナイキの着用シェア率が下がっている理由

1月2、3日に開催された第100回箱根駅伝。往路・復路とも優勝したのは青山学院大学だったが、ランナーたちの足元を制したのは今年もナイキだった。カーボンプレート搭載の厚底シューズを投入して、第94回大会で初めてシューズシェア率でトップを奪うと、その後は“独走状態”が続き、今大会で“7連覇”を達成したことになる。

今回、ナイキは一般発売前だった『アルファフライ 3』(税込3万9650円)を着用した中央大学・吉居大和(4年)、東京農業大学・前田和摩(1年)ら“目玉選手”のコンディション不良もあり、強いインパクトを与えることができなかった。それでも1区を独走した駒澤大学・篠原倖太朗(3年)、5区の区間記録を大幅更新してMVPに輝いた城西大学・山本唯翔(4年)ら全10区間中7区間を制した。

ただし、シューズシェア率は前年の61.9%から42.6%に大幅にダウンした。21年箱根駅伝での着用率95.7%というほぼ100%の時点から考えれば、半分以下になったことになる。今回、王者・ナイキを食ったといえるのがアシックスとアディダスだ。

アシックスは前年から9.6ptアップ

アシックスは今年の箱根駅伝で57人が着用。シューズシェア率を前年の15.2%から24.8%に大きく伸ばして、2位に浮上した。第97回大会(21年)で屈辱の“着用率0%”に終わったが、その後は社長直轄プロジェクトで完成した〈METASPEED〉シリーズで盛り返している。

アシックス「METASPEED EDGE PARIS」
写真提供=アシックス
アシックス「METASPEED EDGE PARIS」

同シリーズはアシックス初のカーボンプレート搭載モデル。画期的だったのが、スピードを上げるときに歩幅が伸びる「ストライド型」と、歩幅も足の回転数も変化する「ピッチ型」の走法の違いに着目したことだ。それぞれに設計された2モデル(〈SKY〉と〈EDGE〉)があり、自身の走法に合わせて選ぶことができる。

他にも多彩なモデルを発売。カーボンプレート搭載シューズがスタンダードになったことで、骨盤まわりのケガが急増しているが、アシックスは「レース前の身体づくりをもサポートする“履き分け”を積極的に推し進めた」ことで“選ばれるメーカー”になったと分析している。さまざまなモデルのシューズを履くことで、特定の部位に負荷が集中するのを防ぎ、故障のリスクを分散することができるのだ。

今年の箱根駅伝では9区で青学大・倉本玄太(4年)が区間賞を獲得(※9区は区間1~5位の選手がMETASPEEDシリーズを履いていた)。また、実業団のニューイヤー駅伝でも7区間中3区間で同モデルを着用した選手が区間賞をゲットしている。

アシックスは正月の駅伝でシェアを伸ばしただけでなく、マラソンでも素晴らしい結果を残した。1月28日に開催された大阪国際女子マラソンで〈METASPEED SKY〉を着用した前田穂南(天満屋)が19年ぶりに日本記録を更新。日本人初の2時間18分台を叩き出したのだ。

その勢いに乗る形で同社は3月11日に新たなレースモデルを発売する。パリ五輪を意識した『METASPEED PARIS』(税込2万7500円)だ。

トップ選手を含む100人以上のテスターの声を取り入れ、各部位の形状や機能構造をバージョンアップ。その結果、さらなる軽量化に加え、反発性やクッション性の向上を実現した。前モデルと比較して、〈METASPEED SKY PARIS〉は約20g、〈METASPEED EDGE PARIS〉は約25gの軽量化に成功。フォーム材の反発領域も前者は約12%、後者は約20%も向上したという。

〈METASPEED EDGE PARIS〉のプロトタイプを着用してニューイヤー駅伝の最長2区で区間賞に輝いた太田智樹(トヨタ自動車)は、「前モデルも素晴らしいシューズでしたが、走り終えた後の足先へのダメージも少なく、自己ベスト更新を目指すランナーへおすすめできるシューズです」とコメントしているほどだ。

同社の業績では2022、23年の12月期で2期連続で過去最高の売り上げ・純利益を記録しているが、それを牽引しているのが『METASPEED』系を含む「パフォーマンスランニング」と呼ばれるカテゴリーだ。この国産ブランドがパリ五輪などでさらに存在感を高めれば、来年の箱根駅伝でのシューズシェア率は、王者ナイキにさらに迫る可能性は高い。