1杯500円から動かせない

3つ目は、価格を上げにくい点だ。

豚骨ラーメンは「500~600円」程度といった安価なイメージが定着しているため、価格を上げると「高い」と客離れにつながりやすい。

福岡の豚骨ラーメンでは一般的に、1杯につき100gの細麺が使われる。対して東京や大阪など発祥の非豚骨ラーメンは1杯につき麺は130~140gで、麺も細麺とは限らない。福岡の豚骨ラーメンよりも1食のボリュームが多い。

ラーメンをゆでる釜
写真=iStock.com/PixHound
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値段は、通常のラーメンで800円~900円程度。中には1杯1000円を超えるラーメン店も多い。

「福岡の豚骨ラーメンは“一食”としてカウントされているというより、飲みにいった後の〆に食べるもの、または小腹が空いたときの『おやつ』として認識されてきたからこそ、安く食べられるものといった印象が根づいているのでは」と博多一双の山田さんは話す。

1950年代、博多漁港に面するエリア・福岡市中央区長浜で生まれた長浜ラーメンが、魚市場で働く人たちから「安価に、さっと食べられて、小腹を満たせる」と支持され、豚骨ラーメン=安いとのイメージが定着したようだ。

ちなみに長浜ラーメンも、茹で時間の短い細麺が使われ、麺の量も100gとされ、替え玉をする人も多い。

ただでさえ光熱費がかかり、原材料費も高騰している。さらに、ラーメンの好みが多様化する中では、福岡で豚骨専門店を出しても利益がでにくい。それでも値段を上げることができない。

そんな状況では、新規で豚骨専門店を始めようとする気概がそがれるのも理解できる。

非豚骨のきっかけになった意外な店

福岡で非豚骨が増えていった背景も述べておこう。

山路さんによれば、福岡で、非豚骨ラーメンとして登場して存在感を示していたのが、「一風堂」だ。世界的にも有名な、豚骨ラーメンのグローバルチェーンだが、1985年の創業時から醤油ラーメンを提供していた。

今でも1号店の「大名本店」では「博多しょうゆらぁめん」を提供しているほか、独自の醤油ラーメンを提供する支店も存在する。

さらに2012年に開業した「支那そば月や 本店」の影響も大きいだろう。「九州極上醤油ラーメン」のキャッチコピーを掲げ、福岡・店屋町にオープンした。福岡出身で、東京や海外に出て多様なラーメンに触れ、学んできたオーナーだからこそ、福岡では当時まだ珍しかった醤油ラーメンを展開し、注目を集めた。

山路さんによれば、福岡市内に非豚骨ラーメン店が増え始めたのはこの頃からだという。さらに、スマホやSNSの普及もあって、福岡の人々は県外にある非豚骨ラーメンの情報を得て、「非豚骨=ラーメンのいちカテゴリ」として、受け入れ始めたのではないかと話す。