「本部主義」では経営陣が裸の王様になる

河越さんは「本部主義ではダメです。現場の肌感覚や知恵を汲み取ろうとしないと、現場との乖離かいりがどんどん大きくなり、経営陣は裸の王様になってしまう」と説明する。現場が考え、現場が実践する。これはイコール現場を信じるということに他ならない。かなり経営者としては勇気のいることだ。

現場迎合主義や現場任せということではない。戦略は本部が練る。具体的な方針と手段は現場が磨き、実践する。

河越さんは苦境の中でも、新規出店の計画を着々と進めたという。それこそが未来への希望であり、コロナ禍を乗り切った時の備えでもあった。

コロナ禍が収束すると、準備していた東京駅をはじめとした新店舗が続々と売り上げ記録を塗り替えていった。そうなると、「もう一店舗増やしませんか」「いい場所があるのですが店を出しませんか」との話がドンドン舞い込む。注目が注目を呼び、文字通りのV字回復につながった。

「東京駅1位」という期待を裏切らない味

常にブランドの価値を上げ、高価値の商品を追求する姿勢も見逃せない。「リピーターの開拓やリピート率の上昇を目指す。そうすれば熱狂的なファンを掘り起こせる」(河越さん)

東京駅のエキナカ商業施設「グランスタ東京」で大成功した「COCORIS(ココリス)」のサンドクッキー「ヘーゼルナッツと木苺」(6個入り1560円)は、東京駅の売上ランキングで4年連続(2020年〜23年)1位に輝いた(※)

※JR東日本クロスステーションデベロップメントカンパニー発表「東京駅限定定番手土産スイーツ売上ランキングTOP10

ココリスの「ヘーゼルナッツと木苺」
写真提供=寿スピリッツ
ココリスの「ヘーゼルナッツと木苺」

東京駅はディズニーランドへ行く人も通る。帰省客や出張のサラリーマンも通る。4年連続というのは、「東京土産に、東京駅1位のお菓子を買ってきたよ」という期待を味が裏切っていない結果だろう。その上、1位という勲章は「うちにも出店しませんか」という呼び水になる。

河越さんは著書の中でこのことに触れ、「品川駅では『フィオラッテ』という別のブランドで出店していますが、これもエキナカナンバーワンです。また、『一位』『一番』『最初』『最大』といった”称号”は、マスコミが取り上げたくなるので、注目度はさらにアップされます」(『寿スピリッツの超絶経営』マネジメント社刊)と説明する。確かに、われわれメディアは「1位」や「1番」という言葉に弱い。