手短に大事なことをポンポンポンと言う

このように、テンポは距離感と密接にかかわっています。教員を目指す学生や実際に教職についている人たちから「どうしたら中高校生がついてくる授業ができますか」と訊かれた時、私は「テンポを上げる」ことを提案します。

まずは一定の時間内で作業や学習を行わせ、時間の感覚を共有してみます。キッチンタイマーを使ってもよいですが、作業や学習に制限時間を設けることで集中力が上がり、気持ちの切り替えもできるようになります。

しゃべるときも、もたもたしない、ポンポンポンと大事なことを三つほど言う。

手短にしゃべる。明るく肯定的なフレーズを使う。うまくいかなかったことを復習する。

これは勉強法でも同じです。

まずさっと一回、通してみる。次に、1回目に自力で解けた問題を飛ばし、もう一度全体を通してみる。答え合わせをし、寝かせて、またもう一度問題を解く。これを積み重ねてゆけば、問題が少しずつ体に入っていき、3、4周することで、解けない問題がどんどん減っていきます。解いていくたびに少しずつ速度もあがり、時間が3、4倍かかるということはありません。

何事も1回目は「大まかにざっと」でいい

コツは、1周目を軽く流すこと、距離の取り方を測ることです。問題集を1冊終わることができない人は、一つ一つの問題にひっかかりすぎているのです。本も同様で、軽めに読み進めると、後半はずっと速く読むことができます。深みにはまることで、脳は自然に流れるようにできているのです。

齋藤孝『上手に距離を取る技術』(KADOKAWA)
齋藤孝『上手に距離を取る技術』(KADOKAWA)

一つの作業を確実に完璧にできるようになるには時間がかかりますので、私は、「ペンキの上塗り方式」をお勧めします。まず全体を薄くざっと塗り、次にもざっと塗る。大まかにやることを繰り返すほうが、丁寧にゆっくり塗り進めるより、ムラなく全体が仕上がるのです。

得られる成果は緻密なものではないかもしれませんが、日本人は仕上がり感、出来にこだわりすぎる傾向があり、これが日本の30年の経済停滞の原因にもなっていると思います。90パーセントの確実性が確認されてからプロジェクトを正式に発足させる、というような判断を続けていては、時代に乗り遅れてしまいます。教育でも仕事でも可能性を高める方向に物事を進めないと、世の中の変化の速度に間に合いません。

テンポが速ければ、修正も早くできます。

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