適切な距離は時代によって変わる

人と人との距離感の認識は時代に応じても変わりますから、その時々で対応を変えていく必要がありますが、同時に日本の社会はいまだに個人に対し、「意見を明確に発信する」ことよりも、「空気を読んで動く」ことを要求しています。そのため特に若い世代では、必要以上に他人とのコミュニケーションに慎重になる人が増えているように見受けられます。

また、生来コミュニケーションが苦手だという方も、いらっしゃるでしょう。ネットを見れば、「人との距離感がわからない」というキーワードで、多くの記事が発信されています。心の持ちようを変えることで、「距離の取り方」は技として学ぶことが可能です。適切な距離感・間合いの取り方が分かれば、今抱えている悩みも軽減され、ぐっと生きるのが楽になり、人間関係も劇的に豊かになります。

顔文字を持つ多様な人々
写真=iStock.com/Rawpixel
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過剰な遠慮や気遣いが人との距離を遠ざける

現代人は、口を開けば他人にものを頼んだら悪い、他人を頼りにしてはいけない、と言います。こういった遠慮過剰、気遣い過剰が、人との距離を遠ざけすぎてしまうのですが、この傾向は若い人にも顕著です。

大学の長期休暇の際に、「2週間を使って、4人で一緒に何かしてみてください」という課題を学生に出したところ、100人弱のクラスの多くのグループが何もしてきませんでした。この課題は「人と関わる練習」なのに、なぜ学生は課題をやらなかったのかを探ってみると、どうも自分から誘ったら相手の迷惑になるんじゃないかと考え、お互いに遠慮をしてしまったようなのです。

人を誘うことが心理的にとても負担が大きい人は、確かにいるとは思いますが、これは教員になる人の授業なので、遠慮し合っていては何も起きません。再度促してみると、ようやく少しずつ腰を上げたのか、「カラオケに行った」「ラーメンを食べに行った」など、細やかな交流をするグループが出てきました。

知らない人と一緒に行動することは、大人が思う以上に、大学生にとってハードルが高いようですが、ひと押しすれば楽しむことはできるのです。

溝を飛び越えるのには手間がかかるものですが、遠慮の壁を下げて溶かしてみると、そこに新しい扉が開きます。気楽に誘うという行為は、慣れの問題です。マナーや距離感を大事に思う気持ちはわかりますが、お互い少し積極的になるとバランスが良くなります。