支払い方法は後払いがおすすめ

死後事務委任は、普通の契約とはいろいろと違う点があります。契約自体は本人がまだ元気なうちに請負者と締結しますが、契約が効力を持つのは契約者本人が亡くなった時点からです。そして請負者が義務を遂行し、それが完了した時点で、対価を支払う義務が契約者に発生します。つまり対価を払う時点で、すでに契約者は死亡しているところが通常の契約と違うところです。

対価の支払い方法はさまざまです。たとえば事前に一括して前払いしておく方法。あるいは契約者の遺産から、かかったお金を差し引く方法。または保険をかけておいて、その保険金で支払う方法など。一般的には事前に前払いすることが多いようでが、私にはあまりいい方法だとは思えません。

なぜなら死後事務委任契約を結んだことを第三者が知らなければ、もし請負者が契約を守らなくても、誰にもわからないからです。あるいは「契約者が亡くなった」という連絡が何かの手違いで請負者に行かなかった場合、別の業者に死後の処理が依頼されることもあります。それを防ぐためにも支払いは必ず「後払い」にし、請負者に死亡の連絡が確実に届く仕組みをつくっておくことが必要です。

いまはさまざまな終活関連のサービスがあり、財産管理や死後事務のすべてを一括で請け負う会社もあります。しかし一社だけに絞るのは契約不履行ふりこうのリスクが高いといえます。それを防ぐためにも、項目ごとに複数の請負者と契約して相互監視の仕組みをつくっておくのが賢明でしょう。

また、あわてて契約しないことも重要です。私の経験では、かなり高齢な方でも相談から契約に至るまで、最低でも3カ月はかけています。よく話し合い、詳しい見積もりを出してもらって、ゆっくり検討してください。

財産以外に関する希望はエンディングノートへ

ここで改めて、どんなことを死後事務委任契約で頼めるかを説明しておきましょう。基本的には死後に関することは、すべてこの契約で網羅することができます。具体的には、「病院へ遺体を引き取りに行き、葬儀が行われるまで指定された場所へ安置する」「死亡診断書を受け取る」「役所に死亡届を提出する」「病院への支払いを清算する」「葬儀の日取りを決める」「亡くなったことを知らせたい人に通知する」「葬儀を執り行う」などの死亡直後の仕事から始まり、「遺品を整理する」「賃貸物件に住んでいた場合は退去手続きをする」「公共料金の支払い停止」「インターネットやクレジットカードの解約」など、実にさまざまな手続きがあります。なかには専門家でなければできない法律や税務の手続きもあるので、その場合は請負者が専門家に依頼して行うことになります。

死後事務を担当する人にとって最も困るのが、故人の希望がわからないことです。家族であれば故人の好みを知っているので、「お父さんはにぎやかなことが好きだったから、お葬式は盛大にしよう」と判断できますが、そうでない第三者にとっては生前の打ち合わせや遺言、エンディングノートだけが頼り。すでに述べたように遺言には財産に関することを主に書くので、それ以外の希望(「無駄な延命治療はしないでほしい」など)はエンディングノートに詳しく書いておくといいでしょう。ふつうのノートに書いてもいいですが、市販のエンディングノートを利用すれば、記入もれを防げます。

【図表】認知症になってからでは取り返しがつかない 身体が衰えてから死ぬまでの契約等の流れ
あなたは本当に「ひとり」ですか?

死後事務委任契約を結ぶのは身内が一番おすすめです。「おひとりさまなのだから、そんなことを頼める身内などいない」と思うかもしれません。しかし民法に定められている親族・姻族いんぞくの範囲で見ると、意外と「身内」は多いものです。たとえば自分の親やきょうだいがすでに亡くなっていたり、高齢だったり、つきあいが途絶えたりしていても、結婚していた人なら配偶者の親族(姻族といいます)がいます。

いとこやいとこの子、自分の配偶者の甥や姪などの遠い親戚に、あなたの財産を相続する権利はありません。しかし私は彼らを頼るのがいちばんいいと思います。なぜなら専門業者に死後事務委任を頼むと、生前から毎月支払いが発生することがあるからです。その点、親類ならばお金はかかりません。周囲の人たちからも「甥っ子さんなら面倒を見るのが当たり前だわ」と納得してもらいやすいので、死後事務の手続きもスムーズに進みます。

PART3 着手は早いに越したことはない「モノの片付け」

終活の第一歩はデータの整理から

終活はやることが多いので、何から手を付ければいいのかわからないかもしれません。私は、家の片付けから始めるのをおすすめしています。

懐かしいアルバムや手紙、使わなくなった趣味のグッズなどを整理することは、自分の過去を整理することにもつながります。片付け作業を通じて、自分の望む人生の締めくくり方がなんとなく見えてくるでしょう。

とはいえ、あと何年生きるかわからないのに、毎日の生活に必要なものまで処分するわけにはいきません。そういう意味でも、手をつけやすいのがスマホやパソコンのなかの片づけです。他人には見られたくない写真や、不要になった電子メールなどを削除することから始めてはどうでしょうか。

ただし、自分の写真はある程度「遺影用」に残しておくことをお忘れなく。おひとりさまは「私は葬式などしない。したがって遺影も必要ない」と思っているかもしれません。しかし、何かのきっかけで考え直すこともないとは限りません。さらには、あまり若いときの写真では葬儀の参列者が違和感を抱きますから、できれば定期的に写真を2〜3枚撮っておき、「この写真を遺影に使ってほしい」と指定しておくと、葬儀を手配する人の負担が少し減るでしょう。

おひとりさまが亡くなれば、残された人がスマホやパソコンのデータ、つまり「デジタル遺品」を整理することになります。パソコンだけに保存されているものなら消去すればおしまいですが、クラウドサービス上にあるデータやSNSのアカウントなどはログインIDやパスワードがないと消すことができません。どんなサイトを利用していて、どんなログインIDやパスワードを使っていたかをリスト化しておく必要があります。できればパソコン内ではなく、紙に書いておいたほうが安心です。

ペットがいる人は、自分の死後にペットの面倒を見てくれる人を確保しておく必要もあります。もし自分で探すことができない場合は、動物愛護団体などがボランティア活動の一環として里親探しを手伝ってくれます。最後まで自分が面倒を見るつもりでも、一度くらいはそのような団体のウェブサイトをチェックして、活動状況を知っておいてもいいかもしれません。

【図表】家の整理と一緒にやろう 忘れがちな準備・片付け