ただ、世界的な経済危機がいつ起きるか、私にもわかりません。兆候はどう見極めればいいでしょうか。大きな危機であっても、最初はごく小さな国や企業の破綻から始まることが少なくありません。小さな問題が起きても、世界中の誰もが「たいしたことはない」と考えます。それから数週間、数カ月が経過したとき、世界に大きな経済ショックをもたらします。

もしも、次のショックのきっかけが日本であれば、それは非常に大きな世界的な危機につながるでしょう。いまの日本の状況を考えると、日本が発端になる可能性を否定できませんが、私自身は「日本から始まることはない」と思っています。日本の国民や企業は、これまで何十年もの間、政治家や日銀から言われたことに従ってきました。今後も政府が政策を打ち出せば、それに従うでしょう。ですから、日本がきっかけになって、危機が始まる可能性は低いと考えています。それよりも欧州やアメリカから問題が始まる可能性が高いと考えています。

1ドル200円台の時代が到来する可能性

とはいえ、日本は大きな課題を抱えています。株価の上昇によって24年は23年よりも幸せを感じる年になるかもしれませんが、長続きしないでしょう。みなさんは聞き飽きているでしょうが、日本では人口減少が続いています。総務省が23年7月に発表した同年1月1日時点のデータによると、日本の人口は09年をピークとして14年連続の減少となりました。

日本人は子どもを産まなくなり、移民の受け入れにも消極的です。さらに日本政府は莫大な借金を抱えています。根本的な対策を講じなければ50年後、100年後に日本は存在しないかもしれません。私は日本が大好きなので、そうなってほしくないと願っていますが、それが現実です。

円安も日本を衰退させる原因となります。いまの日本の通貨は、80年代後半の円安水準にあります。しかし私は、この時期まで円安にならなかったことにむしろ驚いています。もっと早い段階で円安が起きると予測していたのです。なぜなら、日本政府は何十年にもわたって巨額の借金を積み重ねてきたからです。借金の多い国の通貨は安くなるのが普通です。にもかかわらず、円安にならなかったのは、日本の国民が円を買っていたからでしょう。日本政府が日本の国民に対して、「円を買いなさい」と言えば、国民は素直に「はい、そうします」と従ってきました。

70年代後半〜80年代の日本を振り返ってみると、いまとは全く違う国でした。出生率もいまより高く、国としてはもっと成長していました。当時の円相場は1ドル200〜300円を超えていましたので、今回の円安でも、そこまで進むこともありうると見ています。いまよりも人口動態が良く、借金も少なかった当時よりも、円安が進む可能性はあると考えているのです。人口が減り、借金の増えている国に投資したいと思う人はいません。

自国の通貨を安くして成功した国は、いままで見たことはありません。しかし、円安は悪いことだけではありません。あなたが輸出に関わる仕事に就いているなら、円安の恩恵を受けているでしょう。あるいは観光業に関わっているのであれば、外国人観光客によって富がもたらされたでしょう。ですから、すべての人にとって円安がマイナスではありません。変化が起きると損をする人がいる一方で、誰かが得をするのです。短期的に見れば円安で恩恵を受ける企業もあり、株価は上がるかもしれません。そして史上最高値を更新するでしょう。しかし、長期的に見ればプラスにはなりません。

実際に、日本にとって23年は、物価高と円安のダブルパンチで多くの人が苦しんだ年でした。私は今後も円安が続くと考えています。世界的に緩和傾向にあるように見えるインフレが再び加速する可能性もあります。円安とインフレによって、日本が海外から買うものはすべて値上がりして、日本は深刻な問題を抱えることになります。

日本人はかつて大金持ちでした。いわゆる富裕層は少なかったかもしれませんが、豊かでした。私はいまでも、かつてのニューヨークでの出来事を思い出します。ニューヨークでは「日本人があらゆるものを買い尽くしにくる」と恐れられていました。89年には三菱地所がロックフェラー・センターを買収しました。当時のロックフェラー・センターは富の象徴でした。日本株式市場が急騰し、日本に世界中のお金が集まり、日本人は我を忘れてあらゆるものを世界中で買い漁りました。

いまの日本人には信じられないかもしれませんが、日本は常にお金で大変な目に遭ってきたわけではありません。ではなぜ、いまの日本はこれほどお金で苦しんでいるのでしょうか。どうすれば日本経済は復活するのでしょうか。まず取り組む必要があるのは少子高齢化対策だと私は考えています。前述のように14年連続で人口が減っているのは、日本人が子どもを産まなくなったことが原因です。一方で高齢化が進んでいます。高齢者が増えると、その生活を支えるために多くの労働者が必要になります。しかし、日本は少子化によって労働人口が減っています。これは日本だけでなく多くの先進国が同じ問題を抱えていますが、日本の労働人口の減少は他の国々よりもはるかにスピードが速くなっています。

日本政府はいますぐ、子どもを増やすか、移民を増やすか、あるいは両方が必要ですが、どちらもしていません。歴史上、移民を受け入れてきた国は、多くが成功しています。なぜなら、移民は新しいアイデアをもたらしてくれるからです。そして新しいエネルギーが生まれ、国が発展します。

私が暮らしているシンガポールは50年前、200万人ほどが住んでいる埋め立て地にすぎませんでした。そのときから技能が高い移民を受け入れたことで、いまのような成功を手に入れました。アメリカも150年前に移民を受け入れ始めました。どんな移民でもいい、誰でも受け入れるという政策をとったのです。その結果、移民のさまざまなサクセスストーリーが生まれました。日本でも小さな政策はいくつか実行されていますが、十分ではないと私は考えています。

2つ目の課題は借金を減らすことです。日本の借金はここ数十年で急増しています。借金をしてお金を使うことは、その場しのぎにしかならないでしょう。一時的には効果が得られますが、長くは続きません。必ず崩壊します。その状態が日本では何十年も続いているのです。借金の最大の問題は「誰かがそれを返さなければならない」ことです。元本だけでなく、利子も支払う必要があります。借金を減らさなければ、日本の活力を取り戻すことはできないでしょう。

ジム・ロジャーズの提言1
日本の円安はさらに加速する。
少子化問題や日本の借金の現状にもっと目を向けなさい
ジム・ロジャーズ氏