資産拡大のための投資の秘訣

「資産のどれくらいを投資すべきか」との質問をよく受けますが、それはあなたにしか決めることはできません。もし、「自分が何に投資すべきか」がわかっている人なら、資産のすべてを市場に投入すれば、大金持ちになれる可能性が高くなります。しかし、市場のことをよく理解できていないなら、すべての資産を市場につぎ込んではいけません。学びながら一部の資産を市場に投じて、より多くの知識を得ることができたら、投資資金を増やしていけばいいでしょう。そうすればお金持ちになれるかもしれません。

雑誌などには、お金持ちになった人のストーリーがよく紹介されています。それを目にしたとき、多くの人は「自分にもできそうだ」と思うはずです。たとえば、彼らの中には、かつてアマゾンやアップルの株を買って大きな資産を築いた人もいるでしょう。アマゾンの株式は20年で50〜60倍程度になっていますし、アップルは500倍以上になっています。当時、あなたにも同じように株を買うチャンスはあったはずです。「もし自分も買っていれば、お金持ちになれた」と考えてしまうかもしれません。しかし、現実はそう簡単ではありません。ほとんどの人はそのときに株を買うことはできず、お金持ちになれません。

誰かの成功ストーリーを羨んだり、真似たりするのではなく、あなた自身が学び、自分の知っているものに投資しなければ成功できないのです。

私自身がどのように考えて投資をしているか、少しご紹介しましょう。私がいま注目しているのはコモディティ(商品)です。多くの人には投資対象としてなじみがないかもしれませんが、商品には原油やガソリンなどのエネルギー、金や銀などの貴金属、トウモロコシや大豆などの穀物といったものがあります。すべてが投資対象となっています。私は長い間、商品に注目し投資を続けてきました。それは長期的に見て、商品ほど儲かっている資産は少ないからです。多くの人はすでに知っているかもしれませんが、たとえば私は66年から74年にかけて砂糖への投資で大きな利益を手にしました。そのとき砂糖の先物価格は1.4セントから66セントへ45倍にも上がったのです。

そもそも株式と商品の相場は、逆相関の関係があります。つまり、株式が上昇するときには商品が下がり、商品が上がるときには株式が下がる、逆に動くのです。そして、およそ18年サイクルで両者の優位性が入れ替わります。過去を振り返ると70年代は商品相場が過熱して株式市場は不振でした。当時の米国は史上最悪のインフレの状態にあり、商品価格が上昇を続けたのです。砂糖以外にもトウモロコシは295%の上昇、石油も70年代に15倍に上昇しています。さらに、金や銀は10年間で20倍以上も上昇しているのです。その後は株式の時代が到来しました。

そしていま、しばらく続いた「株式の時代」が終わり、「商品の時代」に転換しようとしています。私は世界のインフレが再加速する可能性があると見ていますので、ポートフォリオにある程度の商品を組み入れておくのもいいと考えています。商品への投資はインフレや株式市場の下落に対しヘッジ機能の役割を果たしてくれます。物価が上昇すれば商品の価格も上昇するので資産の目減りを防ぐことができますし、株式などとは違う値動きをすることが多く、株価が下がった分を補ってくれる可能性があるのです。

商品への投資は以前よりも簡単にチャレンジできるようになっています。商品関連のETFやインデックスファンドを利用すれば、個人でも気軽に投資ができます。大きなリスクを取らなくても、商品相場の上昇を自身の資産に取り入れることができるようになっているのです。

前述のように商品には金や銀などの貴金属も含まれます。物事がうまくいかないとき、人々は常に金に価値を見出し、同様に銀にも価値を見出しました。タイミングがよければ、金や銀を買ったり、買い増したりすることは有効だと考えています。

ただし、金はすでにドル建てで史上最高値に近い水準で取引されています。しかし、銀は史上最高値の60%まで下落しています。私がいま買うとすれば、金よりも銀を選ぶでしょう。銀は工業用途や投資向けに需要が高まっています。持っていても損はしないと考えます。私は金や銀を定期的に買い続けていますが、金や銀は基本的に「保険」と考えています。万が一のときに資産を守る手段として持っているのです。たとえば、金の価格は米ドルが上がれば値下がりし、値下がりすると値上がりする傾向にあります。歴史的に米ドルが弱くなると、金や銀を買う人が多くいました。今後も同じことが起こるでしょう。

【図表】金は依然として高値だが、銀は最高値の約60%の価格まで下落している

金や銀を「資産のどれくらいの比率を持つべきか」と聞かれることもあります。これは、人によって異なります。ただ、私自身のポートフォリオの中では、5〜10%を占めています。あなたが金や銀に詳しいのであればもっとたくさんの資金を投資してもよいと思いますが、そうでないなら、多くを保有するべきではないでしょう。

農業分野ではインデックスファンドを買っています。米国の取引所に上場しているロジャーズ農業インデックスファンドです。東京証券取引所にも農産物などのインデックスに連動するETFが5銘柄上場されているようです。これらは、個別銘柄を探すのが面倒な人でも投資が可能です。まとまった資金がなければ、定期的にETFを購入していってもいいでしょう。

ただし、投資する前に自分で学んでください。投資で成功したいと考えるなら、とにかく自分の興味や関心のあることに集中することです。あなたがファッションに関心があるなら、毎日ファッションについてインターネットなどで調べているのではないでしょうか。だとすれば、あなたはすでにファッションの分野で、他の多くの人よりも何歩も先を歩いています。その知識をさらに深めて投資に生かすことができれば、成功確率はぐっと上がるでしょう。あなたが関心のある分野で変化に気づいたら、さらに調査しもっと深く研究してください。好きなものを理解し、投資をするのです。

そのときに忘れてはいけないのは、投資で成功する秘訣です。それは「安く買って、高く売る」ことです。その意味で私は、ウズベキスタンの株も保有しています。ウズベキスタンは中央アジアにある旧ソ連の国です。ソ連崩壊後は独裁者がさらに国情を悪化させましたが、現在は別のリーダーに交代しています。同国には金やウラン、天然ガス、原油などの天然資源があります。観光資源も豊富です。その点に期待して私はこの国に投資を始めているのです。具体的にいえば、ETFに似た投資ファンドを買いました。ウズベキスタンは将来、もしかすると「アジアの虎」になる可能性があると期待しています。ただ、この投資は多くの人に勧められるものではありません。

アメリカの金利が上昇したことでアメリカの企業の社債に興味を持っている人も増えているようです。社債は企業が設備投資や事業資金を調達するために発行する債券です。投資家はその債券を買うことで定期的に利子を受け取ることができます。満期になれば元本が戻ってきます。投資する際に利子率が確定するので、確実なリターンを得たい人に好まれます。しかし、社債を発行した企業が破綻すれば、利子が支払われない、元本が戻ってこないリスクがあります。

同じようにアメリカが発行する債券が米国債です。企業と米国の信用度を比較すれば、米国のほうが破綻リスクは低くなりますが、米国債よりも社債のほうが利率は高くなります。その意味で社債は米国債よりも魅力的な投資先といえますが、その分、リスクが高いことに注意してください。実際に投資をする際には企業の選別が非常に大事です。過去に米国の最大手の企業が破綻したケースは何度もあります。たとえばGM(ゼネラルモーターズ)は世界一の自動車会社でしたが、09年6月に日本の民事再生法にあたるチャプター・イレブン(連邦破産法11条)の適用を申請し、経営破綻しました。負債総額は1728億ドルで製造業では世界最大の規模でした。

GMはかつて世界で最大の自動車会社でした。当時、日本の自動車会社がアメリカに進出を考えていると知らされたGMの幹部は、その事実を笑い飛ばし、全く気にしませんでした。しかし、数十年後には破綻し、いまではトヨタが世界一の自動車メーカーになっています。

企業の経営状況を見極める指標には、バランスシート(貸借対照表)をチェックしたり、自己資本比率を確かめたりする方法がありますが、GMのケースを考えても、それが難しいことがわかります。社債は利回りの面で魅力的ではありますが、投資には十分な注意が必要です。

ジム・ロジャーズの提言2
自分は何に投資をしているか
100%理解できないなら投資先に選んではいけない
ジム・ロジャーズ氏