「老後は地元で」と語っていたが…

50代後半の男性B氏の体験。

「現在80代の父親は若いころから常々“老後は生まれ育った場所で暮らしたい”と言っていました。北関東で生まれ育った父ですが、就職後は東京でサラリーマン生活を送りました。長年故郷を離れ、東京に暮らして、家も東京に構えました。それでも事あるごとに、同級生や親戚のいる故郷で暮らしたいと言っていたのです。その思いを叶えたいと、介護が必要になった父を生まれ故郷にある介護付き有料老人ホームに入居させたのです」

朝陽が染めている前橋市
写真=iStock.com/nick1803
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しかしB氏はその選択を「間違っていたのかもしれない」と感じるようになっているという。

「父は長年サラリーマンでした。ところが、入居した施設は北関東の農業地域にあり、入居者の多くは兼業、もしくは専業農家の人で、サラリーマンだった父は何かと話が合わず、孤立しているようなのです」

横井氏が続ける。

「これは逆のことも言えます。大多数が元サラリーマンの施設では、農林水産業や、個人店で商売を続けてきた人が孤立するかもしれません。介護施設は基本的に地域密着型が多い。他の入居者さんたちと生活環境が近い施設を選ぶのも、大切なことだと思います」

医療体制が充実している施設での後悔

高齢になってくると、体のどこかしらに不調が現れるものだ。高血圧や脂質異常などの慢性疾患を持つ人も少なくない。不安を解消するために、医療体制が充実した老人ホームを検討するのは健康や、その後の生活を守るための賢明な行動と言える。

ところが、そうした賢明な選択が必ずしも幸せな結果を生むとは限らない現実もあるようだ。

「医療の充実に自信を持っている施設の中には、飲酒や喫煙を一律禁止にしているところもあります。もちろん体のことを考えると、酒、タバコはマイナス要素が大きい。しかし、病気を治すために病院に入院しているような場合と違い、老人ホームは生活の場です。生活には潤いも必要です。お酒が大好きな人にとって、それを我慢して送る人生の後半戦は本当に充実していると言えるのか、そうしたことを考えるのも、老人ホーム選びの大切な要素だと考えます」(横井氏)

自分にとって大切なもの。これだけは譲れないもの。などを入居前に考えておく。それを叶えてくれるホームを探すことが、長い目で見たときのクオリティー・オブ・ライフ(QOL)の向上につながるのかもしれない。

「ただ、自分で自分好みの老人ホームを探すというのはどちらかというと稀なケースです。一般的には認知症が進むなどして、自宅での介護に無理が生じてきた段階で家族が探すことになる。そうした場合にも、事前に自分の意思をきちんと説明しておけば、理想に近いホームにたどり着く可能性は高くなると思います」(横井氏)