医師の余命宣告は実際よりも短めに伝えられることが多い。なぜなのか。高齢者医療の現場に長年携わってきた精神科医の和田秀樹さんは「ひとえに医者自身の保身のためだ。短めに言っておいたほうが、医者にとってはリスクが少ない。ただ、患者さん本人にとっては、たまったものではない」という――。

※本稿は、和田秀樹『医者という病』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

暗い病院の廊下の医師シルエット
写真=iStock.com/gorodenkoff
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QOLと免疫を下げて死を早めるうつ病の恐怖

シニア世代になればなるほどに、がんや心筋梗塞、認知症などの病気以上に怖いのが老人性のうつ病です。「うつ病など、たかが心の病気」と思われる方もいるかもしれませんが、うつ病を決して軽視してはいけません。

長く生きるのも大切なことではありますが、やはり私自身は楽しく生きることこそが人生の目的だと思うからです。うつ病になれば、毎日心が鬱々として引きこもりがちになり、自分が生きていることで迷惑をかけていると考えるようになり、体や脳をあまり使わなくなって老化が深刻化し、身体機能や精神面がどんどん衰えていきます。

さらに、うつ病になると免疫機能も下がることも明らかになっています。つまり、うつ病は主観的な不幸を感じ、QOLを下げる上に、免疫力が下がって死を早める危険性を伴っているのです。

本来は「心の病気」に対してより一層の配慮をするべきなのに、日本では精神科の教授はたくさんいても、心の専門家やきちんとしたカウンセリングができる人や教えられる人はほとんどいない。ですから、精神科があっても、それを現代の医療体制に上手に組み込めていないのです。

縦割りの組織が患者を苦しめている

特に、昨今精神科の重要性が増しているのが、終末医療の現場です。

アメリカなどでは、終末医療の現場には必ず精神科の医師がチームの中に加わります。しかし、日本では緩和ケアにおいても精神科医がチームの一員に加わることはほとんどありません。それも、医療業界特有の、縦割りの縄張り意識がいまだ強い上に、薬を使うだけで終末期の心のケアができないので、精神科が役に立たないと思われているのでしょう。

ただ、本来患者さんの利益や幸せを考えるのならば、縦割りの組織をやめて多くの専門家同士が協力する必要があるはずです。どうせ医者に心理ケアができないというのであれば、日本の医療体制もいち早く、アメリカ型のチーム医療に切り替え、臨床心理士や公認心理師のような心の専門家とチームを組むべきではないでしょうか。

患者の人生より目の前の病気

人間はただ生きているだけでは、幸せになれません。にもかかわらず、患者さんの心や人生を考慮しない医者は非常に多いのです。

そのわかりやすい例が、コロナ禍における医者たちの発言でしょう。新型コロナウイルスは、医者がどのような考え方をするのかを浮き彫りにし、医者という病を白日の下にさらした病気だったと思います。