営業にも、工場にも、「前年比」や「利益率」などの、数値目標がない。そんな会社がこの「失われた20年」で売上高23億円から400億円に急成長している。群馬県の豆腐メーカー「相模屋食料」だ。2012年に「ザクとうふ」でガンダムファンを驚かせた同社は、いつのまにか豆腐市場のトップ企業になっていた。その軌跡をまとめた『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』(日経BP)の発売に合わせて、鳥越淳司社長の特別インタビューをお届けする――。(第1回/全3回)
鳥越社長
写真=大槻純一

「成長余地はない」と皆が思い込んでいた

――相模屋食料(以下相模屋)は2000年の売上高23億円から今期(24年2月期)400億円と、急成長を遂げられました。差別化が難しい「豆腐」という超成熟市場で急成長できた勝因はどこにあるとお考えですか?

【鳥越淳司相模屋社長(以下鳥越)】最大の勝因は、その「超成熟市場」という認識そのものだったのではないかと思います。

我々の商品は、「ザクとうふ」や「うにのようなビヨンドとうふ」「ひとり鍋」シリーズのようにキャラが立ったものが多いので、その辺が勝因ではとよく言われます。もちろん、新商品の開発力は我々の大きな特徴ですが、成長できた最大の要因は、「おとうふで差別化は難しい」と、業界の誰もが思っていたので、誰も何もやろうとしない。だからある意味、おとうふの市場はブルーオーシャンだった、ということじゃないでしょうか。

成長余地はない、と見られてリングに上がろうという人がいない。でも「これをやったことがある人はいないよね」と挑戦する気持ちがあれば、こんなに可能性にあふれた市場はない。そういうふうにとらえることができたのがポイントかなと思います。

「豆腐なんてみんな同じ」と、業界の誰もが思っていたんですけれど、自分は雪印乳業(当時)の営業マンから相模屋に転職して数年間、おとうふを実際につくってきて、「おとうふはおいしさで違いを出せる」と、誰に言われるでもなく思いましたし、工場の職人さんたちもそれを分かって、信じていたんですね。それに耳を貸す人がいなかっただけで。

だから、おとうふの持つもともとのポテンシャルを信じて「おいしければ買っていただける」と、取り組むことができました。それが成長につながった、と認識しています。

ザクとうふ
写真提供=相模屋食料
ザクとうふ