経産省が「調達物流」にほとんど目を向けてこなかった

物流問題でよくやり玉に挙がるのは国土交通省ですが、彼らが所管するのは物流事業者であって荷主ではありません。それでも国交省は物流業界の構造問題などについて、これは荷主企業の問題であると、これまで何度も訴えてきました。悪いのは、それに対して聞く耳を持たなかった私たちのほうです。

【図表2】「物流の2024年問題」:影響試算(発荷主別・地域別)

農水省は、荷主の扱う貨物が生鮮品であるがゆえに輸送に制約が多く、物流問題の解決はかなりハードルが高いといえます。実際、物流危機で最も影響を受けるのは農林水産物だといわれています。

一方、経産省が所管する荷主の貨物はそうではありません。私は2021年度に物流企画室長に着任しましたが、物流危機の原因や解決策を探れば探るほど「結局、経済産業省がいちばん悪い」と痛感しています。

何かしなければと思いながらほとんど何もしてこなかったわけですから、これでは問題が解決するはずもありません。さらには、物流のごく一部しか見てこなかったのもお粗末でした。物流というと卸売業や小売業などへの「販売物流」をイメージしがちですが、実は製造業の物流、特に部品や原材料を製造現場に運ぶ「調達物流」もあるのです。

ですから、本来なら調達物流をしっかり見るべきなのですが、経産省がこれまで意識を向けてきたのは販売物流だけで、調達物流のほうはノーマークでした。ここからも、わが省の物流意識がどれほど薄かったかがよくわかります。

「時間外労働960時間以内」と「2時間以内ルール」

これらの反省を生かし、私たちは本腰を入れて物流問題に取り組んでいます。まず2024年4月1日から、トラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されます。これは働き方改革の一環であり、ドライバーの過酷な労働環境を是正する目的で実施するものです。

ただ、いまと同じ条件のもとで労働時間だけを制限すれば、輸送能力が低下するのは目に見えています。

前述の通り、積載率を50%程度まで上げることができれば、最大約14%の輸送能力不足は回避できます。また、ドライバーの労働時間のうち、荷待ちや荷役作業にかかる時間を短縮することも極めて有効な手段です。しかし、そのためには、着荷主、発荷主、物流事業者の3者が相互に協力して、従来の商慣行を是正することが不可欠ですが、実現は容易ではありません。

そこで、これらを規制的措置の導入により実現すべく、2024年初旬の国会に法案を提出する予定です。