「道を行わんとする者、敢えて非道を行うべし」

一方で、ビッグストアが、革新性を失ってきたかと、時々お話になっていた。「ビッグストアが、革新の担い手となって、日本の流通の近代化に力を尽していく。そして、本格的なチェーンストアとして、小売業を産業化するというロマンを実現する」ということに、先生が期待を持たれていたと、今、痛感する次第である。最後まで、大店法に関し、御心配をおかけしたことについて、たいへん申しわけなかったと、反省している。

先生に対する最後の思い出となるのは、昨年の商業界ゼミナールで、基調講演をさせていただいたときだ。先生が中国の古典から選ばれ、常日頃言われていた、「道を行わんとする者は非道を行うべからず」というスローガンに対し、高島屋問題で少し感情的になっていた私は、「道を行わんとする者、敢えて非道を行うべし」と先生に対して、挑戦的な基調講演をした。

中内功にとって歩いた後に道がある。我々の前に道はない。孔子の言ったように、「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり」という、それだけの壮絶なる生きざまがないと、道というものは歩めない、と激しい言葉で話をした。

あとで聞けば、楽屋裏で先生は、ニヤニヤ笑いながら聞いておられたそうである。さすがに先生だと思った。先生の教えを受けたひとりとして、先生の言葉でなしに、その精神の一部を、私が体得したということで、喜んでいただいたのではないかと思う。

先生には、ダイエーの主催する一兆円達成祝賀パーティーやその他のパーティーにも、いつも出席していただき、我々を、身をもって激励してくださった。(後略)

お別れの会では柳井正会長が弔辞を読んだ

今日、倉本長治も中内功も故人となって久しい。そして両者がつくった商業界もダイエーもない。

鎌倉時代の随筆家、鴨長明が言うように「諸行は無常であり、世のすべてのものは移り変わり、生まれては消滅する運命を繰り返し、永遠に変わらないものはないのだ。

しかし、人は死んでも、遺した真理は生き続ける。

事実、「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」という書き出しで始まる長明の『方丈記』は、名作として後世に残る。そこに、今を生きる我々にも響く教えがあるからだ。

倉本長治の教えは中内功をはじめ、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正、イオングループ創業者の岡田卓也に引き継がれている
筆者提供
倉本長治の教えは中内功をはじめ、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正、イオングループ創業者の岡田卓也に引き継がれている

ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正は倉本の教えを、解説を寄せた『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる』で「純度の高い結晶のような言葉」「商いの真理」と表現している。

真理はそれを求める人を導き、道を示す。柳井正もまた、中内功と同じように、倉本の思想の中に自らが進むべき道を見いだした男だった。

2005年12月5日、東京都千代田区にあるホテルニューオータニ。政財界をはじめ各界およそ2300人が参集した中内功お別れの会で、柳井はこう惜別の辞を述べている。