おれたちをここまで追いつめたやつは、誰なんだ
声がわれたように咽喉にからんでいるのは涙のせいだろうか。恐怖に舌がひきつれているせいだろうか。暗くてよくわからないが、その顔はおそらく真っ青に凍りついているにちがいない。額には脂汗がぶつぶつ玉になって吹いているにちがいない。
おそろしい死を前にして、彼らの最後のよりどころはおっ母さんだ。ほかの誰でもない。たった一人のおっ母さんだ。だが、そのおっ母さんはここにはいない。おっ母さんは遠い遠い遙かな海の向こうだ。いくら呼んでも叫んでも海の向こうのおっ母さんには聞こえはしない。とどきはしない。だが、それでもやはり母を呼ばずにはいられないのだ。
「お母あーさん、母あちゃーん、母あちゃーん……」
おれは彼らのそばを駈けぬけたが、どうしてやることもできなかった。手ひとつ出してやることもできなかった。ひと声、声をかけてやることすらも……。おれは自分のことしか考えていなかった。自分のことだけで精一杯だった。
それにしてもおれたちをここまで追いつめたやつは、一体誰だ、誰だ、誰なんだ……。突然、はじけるような激しい怒りが、胸いっぱいに突きあげてきた。それを誰にむけていいのかわからなかったが、おれは口の中でのろい声をあげつづけた。
彼らはきっと旗竿にしがみついたまま、艦と運命をともにしてしまうだろう。海中にひきずり込まれてしまうだろう。そしておそらく暗い海底に引きずりこまれていきながらも、なお声をかぎりに母の名を呼びつづけているにちがいない。
のどを裂くような彼らの叫び声は、いつまでもおれの耳について離れなかった。