執行役員の任命には本人への意思確認はなし

今回の任命では事前の本人への意思確認はなく、任命されたからにはYesと言って腹をくくるしかなかった。冒頭のように“えらいことになった”と、八木さんは頭を抱えた。

「業務としては変わらずにデータを活用したサービスの開発を進めるのですが、執行役員ともなると経営層のひとりとなり周囲の期待値がグンと上がります。それに開発するサービスをビジネスとしてちゃんと収益化しないといけないので、責任は桁違いに大きくなります。さらには、私が統括部長になるタイミングで商品開発本部に本部長と副本部長を外から迎えることになっており、新しい上司たちと新しい本部を作るという役割もありました。だから心底、えらいことになった、大ごとだと感じました」

中身は「大阪のおっちゃん」を支えるのは、家事・育児を担う夫の存在

八木さんは論理的・戦略的思考の持ち主で、一見非常に冷静沈着に見える。しかし実際の気質は、“大阪のおっちゃん”だという声も社内にはあるようだ。

「仕事上で不条理な場面に遭遇すると、たまにブチっと切れてしまうことはあるようですが、基本的には温厚な性格です。しかも半分関西人なので、笑いの要素も忘れません。ときどき『あんなこと言われてムカッとしないのかな?』と不思議に思いますが、いい意味でのスルー力、鈍感力に優れています(笑)。それに余計なこと、嫌なことはすぐ忘れてしまうみたいで。これは八木の一つの才能だと思うし、後から養おうと思っていてもなかなかできることではありません」と、八木さんに近い社員が評する。

そんなコメントを聞いても、八木さん本人は淡々としたもの。「悪いことの裏には、良いこともあります。たとえば、若い頃は女性だけにお茶汲み当番がありました。でも男性研究者の中に混じっていても、女性だからかすぐに顔を覚えてもらえたこともありました。もしイヤなことがあったとしても、『結局はプラマイゼロ』と思うようにしています」とのこと。そう、いたってマイペースなのである。

八木さんは大学院在籍時に結婚、そして出産。27歳の息子の母でもある。家庭では夫が「主夫」として、育児、家事全般を引き受けてくれるので、仕事に注力できたのは夫のおかげだと感謝する。東京に転勤になった時は、息子が中学3年生だったので、単身赴任生活を選んだ。その後大学進学にともない、夫と息子が上京。また家族三人で生活することになった。

「だから私が女性社員のロールモデルになるには特殊すぎます」と八木さんはいうが、今後こんな女性が増えていきそうな気もする。

趣味は近所の単館映画館での映画鑑賞。そして自宅の庭の草むしりをして、ひたすら作業に集中して頭をスッキリさせる。どこまでもマイペースな執行役員だ。

(構成=東野りか)
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