イスラエルは戦後、政策的に「人口ブースト」

将来人口については、流入については、後ろで見るようにユダヤ人は世界にそうは残っておらず、建国直後やソ連崩壊の時のような多数の人口流入は起こりそうにない。また、政策的、イデオロギー的なブーストで先進国の水準を1以上上回っている合計特殊出生率も今の水準をどれだけ維持できるかは未知数だ。従って、イスラエルの人口増加はこれまでの延長線ということになろう。

一方、パレスチナの方も出生率の低下傾向を反転させることは難しいと考えられるので、現在行われているイスラエルの攻撃でさらに大量の国外退避を迫られない限り、やはりこれまでの延長線ということとなろう。

したがって、従来の平和的共存路線の下では、イスラエルとパレスチナの人口比も今後、ほぼ横ばいの傾向となりそうである。ハマスの奇襲へのイスラエルの過剰とも見える反応には、言明されている報復、安全確保の目的を超え、こうした人口動向で優位に立とうとする意図が隠れていないとは言い切れまい。

薄れていく平和的共存の望み

こうした人口情勢の中で、イスラエルとパレスチナ自治との平和的共存が可能かどうかに関する意識調査の結果推移を見ておこう。

【図表】「イスラエルと独立パレスチナとが平和的に共存する方法を見いだすことができるか」に対する「できる」の回答率
筆者作成

図表2は、ピューリサーチセンターが行ったイスラエルの成人に対して行っている意識調査の結果推移であるが、イスラエル国籍のユダヤ人もアラブ人(パレスチナ人)も共に平和的共存への希望を減退させていることが明らかである。特にアラブ人は2013年には平和的共存が可能だと考えていた割合が74%だったのが2023年には41%にまで低下している。それでも、なお、ユダヤ人の32%に比べるとまだ希望は失っていなかった。

オスロ合意後の和平交渉が頓挫し、オスロ合意におけるパレスチナ側の主役だったアラファト氏も既に没した。イスラエル政界の和平重視派を倒して地歩を築いた強硬派が現首相のネタニヤフ氏で、アラファト氏や後継の交渉路線を拒んでイスラエルの存在も否定する武闘派がハマスである。ガザに和平の希望があった1994年の夏は遠くなったと言われるが、それがこうした意識調査の結果に表れていることは間違いなかろう。

こうした意識変化や政治の変化を背景に、今回の武力抗争が始まっているのである。