死傷者が増える一方のパレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘。統計データ分析家の本川裕さんは「イスラエルは戦後、政策的イデオロギー的に人口ブーストしてきた。今回のハマスの奇襲への反応には、報復・安全確保の目的を超え、人口動向で優位に立とうとする意図が隠れているかもしれない」という――。

ハマス掃討は是か、それとも過剰報復か

パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが、2023年10月7日、ロケット弾や戦闘員の侵入によってイスラエルへの大規模な攻撃を仕掛け、人質を多く拉致した。

これに対しイスラエルが報復を開始してから1カ月以上が経過し、これまでの空爆以上に多くの民間人の犠牲を伴うと予想されるイスラエルによる本格的な地上戦が開始されている。世界はイスラエルのハマス掃討作戦を支持する声と、過剰防衛を非難する声とに二分されている。

今回は、パレスチナ問題の激化の背景にある人口動向について基本的データを紹介し、情勢把握の参考としたい。

パレスチナをアラブ人国家とユダヤ人国家に分割する1947年の国連によるパレスチナ分割案を受けて、ユダヤ人は1948年にイスラエルを建国した。その結果、欧州やロシアからのユダヤ人の移民が相次ぐ一方で、100万人を超えるアラブ人がパレスチナから追放されて難民となり、イスラエルとアラブ諸国との対立や、パレスチナ人の反イスラエル闘争がはじまった。

1993年には対話による解決を目指してパレスチナ人の暫定自治に合意したが(オスロ合意)、イスラエルによる占領政策により居住領域をじりじりと侵され続けるパレスチナ人の反発はやまず、紛争は長く続いている。

図表1には国連推計により建国から2年目の1950年から2021年までのイスラエルとパレスチナの人口推移を掲げた。

1950年代~60年代には世界からユダヤ人の移民流入が相次ぎ、当初100万人だったイスラエルの人口は、1970年代には300万人台にまで拡大した。さらに、1991年のソ連崩壊前後に旧ソ連圏からのユダヤ人の大量流入が起こり、再度、人口は大きく増加した。

その後、21世紀にはいると在外ユダヤ人の流入は減ったが、合計特殊出生率が3以上という高所得国としては異例に高い出生率を背景に人口は伸び続け、2021年には890万人に達している。

一方、ガザ地区とヨルダン川西岸のパレスチナ人口は、当初は、イスラエルとあまり変わらない100万人程度の水準だったが、数次にわたる中東戦争による難民流出により人口はしばらく横ばいで推移していた。1973年の第4次中東戦争が終わったあたりから、人口流出の動きが弱まる一方で高い出生率に支えられて、人口はイスラエル以上の増加率で伸び始め、2021年には513万人に達している。

イスラエルとパレスチナの人口の合計に占めるパレスチナ人口の割合の推移を図中に示しておいた(イスラエル人口構成では、同国籍のパレスチナ人が21%)。1950年に42.4%だったのが1974年に27.1%のボトムに達したが、その後、回復傾向をたどり、2021年には36.6%にまで上昇している。居住エリアを蚕食されながら人口比は上昇しているのであり、それだけ過密、劣悪な環境を強いられていると見なせる。

ただし、パレスチナの人口比率の上昇は近年、横ばいに転じつつある。これは、イスラエルより高かったパレスチナの出生率の水準がイスラエルに近づきつつあるからである。