液系以上の高レベルな生産工場が必要

また、硫化物はイオン伝導性が高いことは以前からわかっていた。問題は硫化物を使用することの安全性だったが、トヨタも出光も安全性を確保できるある程度のメドを得ているようだ。

前述したが、実用化までには高い安全性を担保した電池セル設計はもちろん、どんな衝撃にも耐えられる密封を徹底させた電池パックの作り込みも求められる。

量産工場では、液系リチウムイオン電池のドライ(乾燥)ルームよりも、格段上の高レベルなドライ環境は必要になる。水分を徹底して排除し、工場稼働後も厳格な湿度管理をしていかなければならない。

このため建設費は膨らみ、どうしても製品のコストアップにつながってしまう。が、まずは安全確保を優先せざるを得ない。

出光は2001年から、トヨタは2006年から全固体電池開発に取り組み、2013年以降両社は「一緒に(開発の)課題解決に取り組んできた」(佐藤社長)。出光は90年代には、石油製品をつくるための脱硫工程で得られる硫黄成分の有用性を追っていたそうだ。

トヨタが展示したコンセプトカー
撮影=プレジデントオンライン編集部
トヨタが展示したコンセプトカー

日本が開発、量産した技術だが…

そもそも充放電を繰り返し使える二次電池の代表であるリチウムイオン電池は、日本発の技術である。1980年代半ばに旭化成の吉野彰氏が基礎開発し、91年にソニーが世界に先駆けて量産に成功した。リチウムイオン電池がなければ、EVもスマホも世の中にはなかった。吉野氏はノーベル賞を受賞している。

ところが、日本発のこの技術は、他国に追い抜かれてしまった。電池だけではない、日本がかつて世界を牽引していた先端技術が相次いで負けている。半導体や液晶、やはり日本発技術の有機ELなどもあるが、何よりEVが先頭集団から脱落してしまっているのは痛手である。

自動車業界関係者からはこんな声が聞かれる。

「EV開発の主戦場は、いまや二次電池ではなく、世界的には自動運転にある。単体としての車から、交通システムの中のEVという位置づけにシフトしているから。特に、自動運転を進化させるソフトウエアを走らせるための半導体の設計技術がいまは最重要」(外国人アナリスト)
「EVを本格量産した経験のないトヨタが、果たして(電池もEVも)量産できるのか。新型電池には多くの知見が必要」(自動車メーカー幹部)