液体と固体、どちらが安全なのか?

あれから10年が経過したが、現在もテスラ車に限らず液系リチウムイオン電池搭載のEVによる火災事故は発生し続けている。車両事故によってではなく、走行中に熱を帯びた電池が燃えてしまうケースもあるから、社会受容性は揺らいでいくのかもしれない。EV大国となった中国でも、火災事故は起きている。

液体電解質は一度火がつくと消火作業は難しく、大量の水を必要とする。

全固体電池を搭載した車両が事故を起こし硫化系ガスが漏れたとしても、ガスの発生速度は比較的緩やか、と言われる。液系リチウムイオン電池で起こる連鎖的で消化が困難な車両火災と比較して、どちらが安全なのか。

既存技術との比較も、リスクコミュニケーションにおいては、正しい数値を交えてトヨタは説明するべきだろう。打ち出し方はポイントにもなるはずだ。

そもそも固体電解質を使う全固体電池には、電解質が固体であるゆえの問題を抱えていた。具体的には活物質(電極)と固体電解質との界面(境界)が離れてしまう点だった。長期間、充放電を繰り返して使うと固体が割れてしまうケースも招いた。

トヨタと出光の共同技術が生きる

液系リチウムイオン電池では、リチウムイオン(陽イオン)が電解液のなかを移動しながら、正極と負極とを行き来して、充放電が繰り返される。正極は三元系(コバルト、ニッケル、マンガン)やリン酸鉄などのリチウム酸化物、負極は主にグラファイトを使う。充放電により電極内部にリチウムイオンは入り込み、離れていく。これに伴い電極は膨張と収縮とを繰り返すのである。

電解質が液体なら流動性があるため、膨張・収縮する電極との界面は常に保たれる。

電解質が固体の場合、繰り返される電極の膨張・収縮に対応して界面を保つことが難しくなり、電池としての機能の安定性を欠いてしまう。長期にわたって充放電を繰り返すと、電極と電解質の間に亀裂が発生してしまったり、電解質が割れてしまったりして、電池が使いものにならなくなるといった耐久性にも問題があった。また、固体材料によってはイオンの移動での抵抗値は高くなり、思うような出力を見出せないケースもあった。

こうした課題に対し、一定のブレークスルーを果たしたのが、トヨタと出光が開発を進める硫化物固体電解質だ。柔らかく他の材料と密着しやすいのが特徴という。固体でありながら、電極の膨張・収縮に対応できて界面を保てる、と見込まれている。

トヨタが展示したコンセプトカー
筆者撮影
トヨタが展示したコンセプトカー