商品が良くても会社が内向きでは成功できない

「お客さま第一」の会社かどうかを見るときの2段階目は、働いている人たちの姿勢や考え方です。独自のQPSで業績を上げても、お客さまを素直に、謙虚に見続けなければ、一時的に終わってしまいます。

25年ほど前のことになりますが、ある電機メーカーの組織改革についての新聞記事を読んだことがあります。それは、そのメーカーの商品を販売している街の電気店からの注文を、白物家電なら白物家電、テレビならテレビというように、それぞれの事業部で受け付けるようにする、というものでした。従来はどの商品でもまとめて受け付けていたので、これでは街の電気店の手間が増えてしまいます。しかし、メーカーとしては、このほうが合理的だというわけです。

これは、一番のお客さまの利便性を無視した、内向きの発想です。これでは、いくら商品自体が優れていても、いくら優秀な人材がいても、好調は続きません。ドラッカーは「企業の一義的価値は企業外部にしかない」といっています。その通りで、お客さまに認められない限り、企業は成り立ちません。しかし、歴史があればあるほど、規模が大きくなればなるほど、会社は内向きになりがちです。

来客があっても声をかけない従業員たち

では、私たちはお客さまの会社を訪ねたとき、どこを見て、その姿勢や考え方を判断しているのかというと、掃除やあいさつができているか、です。

たとえば、受付に電話機が置いてあるだけの会社が増えています。それはいいのですが、その電話機の前に来客がいるのを見かけても、従業員が声をかけない、あいさつをしない会社があります。そうした会社が、本当にお客さま第一でいられるでしょうか。掃除の行き届いていないオフィスでは、来客はもちろん、働く仲間も居心地がよくないでしょう。それで平気な人たちが、お客さま第一をできるでしょうか。

企業の来客用ロビーの風景
写真=iStock.com/onurdongel
※写真はイメージです

もちろん、掃除やあいさつをしているからといって、業績が上がるわけではありません。繰り返しますが、お客さまが買うのは、あくまで商品やサービスです。実際、大企業のほとんどは、掃除を業者に任せています。しかし、それは大企業の従業員はもともと「基礎力」が高いからです。

あとで述べるように、掃除やあいさつを徹底することは、従業員の基礎力を上げることにつながります。基礎力とは、「思考力」と「実行力」です。基礎力が高まれば、お客さまに対する気づきを多く得るようになり、また、お客さまのために行なう活動の実行力も高まるのです。