大きな仕事を成すのは「自我が極端に少ない人」

その場で何がもっとも重要なのか。

そもそも、みんなで集まって議論をする最大の目的は何か。それは、自分ひとりでは何日、何カ月かけても到達できないような発想が、みんなで言葉を交わし合いながら生まれること、その一点のみなのです。

鈴木さんが、どのようにしてこうした考え方を身につけたのかはわかりません。もしかすると、もともと自我というものが極端に少ない人だったのかもしれません。

以前のぼくは、強烈な個性と自分を確立している(ように見える)人のほうが仕事ができると考えていました。しかし、実は逆なのだ、と最近とみに感じます。

人の意見を取り入れ、流れに任せ、その場で求められている空気をつかむ才能を持っている人のほうが、ずっと大きな仕事を成すのではないか。

実際にぼくが見てきた大きなチャンスを得る人は、皆このタイプでした。

目上、若い人、身内と枕詞を使い分けること

ひとつ注意したいことがあります。

相手の意見を、自分の意見と関連づけて話す際に、ただそのまま話すだけでは、「それ、自分がさっき言ったことじゃないか」という反発が生まれてしまいます。反発を避けるための枕詞が大切なのです。

石井朋彦『新装版 自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)
石井朋彦『新装版 自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)

相手が得意先や来客者の場合で、目上の方であれば、「さっき、○○さんがおっしゃったように」という枕詞をつけます。若い人のときは、「△△さんの意見は、とてもおもしろかった」と、切り出す。

身内の場合は、「□□はよく知っているけれど……」と、まず相手を立てる。このひと言を入れるか入れないかで、印象はまったく違ってきます。

相手の意見を自分の意見として取り込む瞬間こそ、もっとも「自分を捨てる」必要がある。そのアイデアや意見は、「あなたにもらったものなのだ」と表明することが大切なのです。

鈴木さんはいまもよく、「石井はよく知ってるけどさぁ」と言いながら、議論を活性化させます。その瞬間は、ぼくにとってとても心地よい瞬間です。たとえ鈴木さんの手の上で踊らされている、とわかっていても。

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