まず「日本酒とは何か」を伝えなければ

〈日本食は北米でもブームになって伸びてはいると、たびたび報じられるものの、実際には規模は小さい。日本食店だけへの提供では、どうしても限界がある。なので、多様なレストランにSAKEを売り込んでいくが、そうなると「日本酒の文化、背景について、一流レストランのシェフやソムリエにきちんと伝えなければなりません。新工場はそのための前線基地です」と一宏社長。

工場は、麹造りをはじめ各工程を見学できてテイスティングルームも完備している。日本酒が同じ醸造酒のビールやワインと違うのは、糖化と発酵が同時に行われるなど、つくりが複雑なこと。特に純米大吟醸となると、外部環境の変化に対して敏感であり、冷蔵保存が求められる。

SAKEを知らないレストラン関係者に、飲むだけでなくSAKEが出来上がる様子を見てもらい、保管を含め理解を深めてもらう必要があるのだ。接点が、進出工場である。〉

インタビューに答える桜井一宏社長
筆者撮影
インタビューに答える桜井一宏社長

――料飲店から始めるわけですが、家庭向けの小売はどうするのでしょうか。小売店での日本酒の価格は店によりバラバラと聞きます。

【博志会長】米市場において、日本酒の価格は、流通によってコントロールされています。価格決定権が酒蔵にはない。これは日本酒業界の弱点なのです。自分たちで価格コントロールできる正常な形に、これからしていきたい。ダッサイ・ブルーをSAKEのスタンダードになる強いブランドにしていき、是正していければと。

より高額なダッサイ・ブルーも投入していく

〈シェア0.2%と、日本酒の存在感があまりに希薄なため、商品に対する流通の支配力が圧倒的に強い、という状況なのだ。

さらに、アメリカの酒類の小売販売は州によって異なる。「ニューヨーク州の場合、リカーストアにワインや日本酒は置けるが、ビールは販売できない。その一方、スーパーではビールを販売できるものの、ワインやウイスキーを売ることはできない」(一宏社長)。これは小規模なリカーストアを保護するためだけでなく、「禁酒法時代のなごりから、酒類販売への規制が残っているため」(現地の関係者)という指摘もある。

なお、9月に発売を始めた「ダッサイ・ブルー タイプ50 720ml」は小売店でも販売され、希望小売価格は34.99ドル(同約5248円)。タイプ50は精米歩合が50%を意味するが、今後は35%、23%と、より高額なダッサイ・ブルーを現地に投入していく方針だ。〉

――実は昨日、ブルックリンのステーキハウス「ピータールーガー」に、行きました。そこでは、ステーキを運んできた中年の接遇スタッフから、「ステーキソースは使わないように。肉だけで味わいなさい」と言われました。

「ではなぜ、ソースをもってくるのか」と質すと、「当店が100年以上前から提供するソースを、好きだというお客さまがいるから。どうしても使いたかったら、一回だけ試しなさい」とさとされました。値段の高さ以上に、自分たちのソースを否定する対応に驚きました。