総人口における65歳以上人口の割合は29.0%(内閣府「令和5年版高齢社会白書」)におよんでいる。人生100年時代を迎え、退職・年金世代の「いつまで資産・預貯金がもつか」との不安は大きい。『60代からの資産「使い切り」法』を上梓したフィンウェル研究所代表の野尻哲史さんは「これから必要なのは『資産を取り崩しながら、同時にその寿命を延ばしていく』という視点だ。そのためのポイントは、引き出しを“率”で考えることだ」という──。

「億り人」が陥りがちな罠

ひと頃、「FIRE」や「おくり人」といった言葉が流行はやりました。

FIREは、Financial Independence, Retire Earlyの頭文字をとったもので、経済的に自立して早期退職をしようという米国発のライフプランです。

当初よく言われたのが、「1億円を作って4%運用を続ければ、年間400万円を使っても資産を減らさない生活を続けられる」というものでした。そして、実際に1億円以上の資産を作ってアーリーリタイアを実現した人が「億り人」といわれ有名になりました。

しかし、彼らがおちいりがちな「罠」があります。1億円を作ることに目が向きすぎて、その後の「取り崩し」を考えないのです。

女性の縛られた手にアメリカドルが入った赤い財布
写真=iStock.com/Victoria Kotlyarchuk
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寿命が来る前に資産が尽きる恐怖…

退職時点で1億円の資産を持っていても、「より長持ちさせる引き出し方」を知らずにどんどん使ってしまえば、あっという間に資産が枯渇こかつしかねません。

また、仮に平均3%の収益率で運用できたとしても、安心はできません。退職生活の前半で運用パフォーマンスが悪かったケースと、前半が良かったケースとを比較すると、平均収益率としては同じでも、前半のパフォーマンスが悪いと資産が0円になるタイミングがずっと早く来ます。

100歳まで生きると想定すれば、100歳までもってほしい資産が、80歳で尽きたら困るわけです。しかし、「引き出し方」で、最後までもつ人と早くに尽きてしまう人とが分かれてしまうのです。

詳しい説明は、拙著『60代からの資産「使い切り」法』をご参照いただくとして、本稿ではごく簡単にその一端を紹介します。