トヨタは安くて小さい車を売らない

──10年末にインドで発売した小型車「エティオス」ベースの新モデルを、15年までに8モデル展開する。新興国での車種戦略は。

布野 戦略の本質とは他社との差別化です。HVもそうですが、トヨタの強いところを中軸としていく。つまり、排気量1000cc未満のAセグメントをトヨタはやりません。1000~1500ccのBセグメントを中心に、Cやそれ以上もやっていきます。長年新興国で仕事をしてきた私からすれば、「新興国は安い車、小さい車が欲しいんでしょ」というのは上から目線だと思うのです。新興国は小さな車しか売れないわけではない。(高級車)レクサスの需要も大きいのです。

──Aセグ以下はどうしていくのか。また、有望な市場は。

布野 小さな車は、例えばダイハツと販売協力して対応していくし、PSAプジョー・シトロエンとチェコの合弁でAセグの「アイゴ」を生産しています。連携しながら弱いところを補い、トヨタの強みを発揮していく考えです。トヨタは新興国市場のすべてを取ろうと考えてはいません。シェアのせいぜい3割から4割ぐらいが目標で、例えばEVでは中国BYDに頑張ってもらうなど、それぞれの持ち味が発揮されたらいいと思う。タイやインドネシアなどのASEANに関しては、日本メーカーが圧倒していて欧米韓メーカーは入れない。また、ブラジルやインドは親日であり、期待は大きい。

──グローバル化の中で日本人はどうあるべきなのか。

布野 現地法人に出向したら、当然その国の人たちと働くわけです。一番大切になるのは、チームワーク。チームワークを発揮するための前提は、チームメートへのリスペクト、すなわち尊敬です。リスペクトなしに、チームで仕事をすると、自分は本社から来た日本人だから命令する人、現地人材は命令を遂行する人となってしまう。これではうまくいきません。トヨタ自動車の従業員証が、現地人材に対しての「上から目線の免許証」であってはいけないのです。

日本の暮らしに慣れていると、どうしても「安全じゃない、汚い、おいしくない」と文句が出てしまいます。これらはすべてモノに目がいっているからです。相手国に対するリスペクトを持って、モノではなく心の世界を大切にする。そこでつながることが、グローバル展開の中で最も重要なことです。そうではない人間は使いたくない。私は強くそう思っています。

※すべて雑誌掲載当時

トヨタ自動車副社長 
布野幸利 

1947年生まれ。神戸大学経営学部、米コロンビア大学経営大学院修了。70年入社。95年豪亜・中近東業務部主査、2003年米国トヨタ社長などを経て09年より現職。
「25年間、新興国を中心にやってきたので本社では異邦人です」。
(永井 隆=構成 的野弘路=撮影)
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