ヨーグルトには血糖値を下げる効果がある

この状態を避けるために、かつて糖質制限(炭水化物ダイエット)がブームになったこともあった。

しかし八木氏の研究はもっとシンプルだ。第3回の記事(血糖値を下げ、老化を防ぎ、免疫力を高める…最強の健康食品「ヨーグルト」で唯一注意するべきこと)で紹介したように、ヨーグルトそのものが、糖化を抑制する作用があることを突き止めたのだ。簡単にいえば食前にヨーグルトを摂取すると、血糖値が急上昇しない。なぜヨーグルトが血糖値を下げるのか。

「今わかってきているのは二つです。一つはヨーグルトの上ずみ液(ホエイ)中に含まれるタンパク質の分解物に、血糖値を下げるインスリンの分泌をよくする働きがあること、もう一つはヨーグルトを作る乳酸菌が『乳酸』という物質を作り出しますが、これに胃の消化液を抑える作用がある。すると胃から腸へ送り出すスピードが落ちる、結果的に血糖値の上がりがゆるやかになるのです」

乳酸だけではなく、柑橘類に含まれるクエン酸、お酢に含まれる酢酸など、「酸」には同様のメカニズムで血糖値を下げる働きがあるという。

「米飯だけ」より「米飯と肉」のほうが血糖値が上がらない

ここでようやく本題の研究の紹介だ。八木氏の研究の原点は「牛丼」という。白飯単独で食べるのと、牛丼にして食べるのでどちらが食後血糖値が下がるのかを比較したのだ。

「すると、牛丼にしたほうが下がったんです。牛丼のほうがトータルで糖質量が増えるのにもかかわらず、です」

牛丼
写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです

部位によって異なるが、牛肉は100gあたり5g程度、またタレにも糖質は含まれるから、「牛肉+米飯」にすれば全体の糖質量は多くなるはず。何が血糖値低下に影響したのだろうか。次に八木氏は、牛丼に使用される具材を比較実験した。

健康な男女19名の空腹時血糖値を測定した後、米飯にプラスして4種類――1)生だれ 2)煮だれ 3)肉 4)玉ねぎ――のいずれかを食し、白米のみの食後血糖値と比較した。すると、一番血糖値を上昇させなかったのは「肉」という結果だった。

「肉の次に血糖値上昇を抑制できたのは、玉ねぎでした。主たる栄養素は食物繊維ですね。実際にはもう少し細かく実験を行っているのですが、簡単にまとめると食物繊維よりもタンパク質や脂質のほうが血糖値を下げるのに効果があるということです。よく油を取りすぎると『胸焼け』がするというでしょう。それは結局、胃から腸にすぐに送られず、滞留しているとも言い換えられる。分解しづらいものがきたという感じで、体はゆっくり消化するんですね。だから血糖値があがらない。もちろん脂質ばかり摂取していたら、それ自体が糖化を起こしやすくなるので油物ばかりは厳禁ですよ。ただし、適量の油はむしろあったほうがいいということです」

画像=Glycative Stress Research 2016; 3 (4): 210-221 より引用。同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授の八木雅之氏らの論文より。牛丼のほうが白米より食後血糖値の上昇を抑えていることがわかる。
画像=Glycative Stress Research 2016; 3 (4): 210-221 より引用。同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授の八木雅之氏らの論文より。牛丼のほうが白米より食後血糖値の上昇を抑えていることがわかる。