それでも不動産を所有したくなる2つの理由

なぜ、これほどまでみんなが不動産を所有したがるのか? いちばんの理由は、農耕社会では土地を所有していないと生き延びられなかったからだろう。「土地を失うことは死ぬことだ」というルールで何千年もやっていると、「土地なんかなくてもなんの不都合もない」という新しい時代に適応できなくて、使い古しの神話にしがみついてしまうのだ。

そしてもうひとつの理由は、「借金すればするほど得になる」という奇怪な理屈を振りかざして、不動産を素人に売りつけることで商売するひとたちがいることだ。

誠実そうな不動産営業マンが君のところにやってきた。彼の話によれば、1000万円のワンルームマンションを買うと年間100万円の賃料を受け取れる。投資利回りは10%で30年間は家賃が保証され、「頭金ゼロ」でも購入資金を銀行が貸してくれる。

ゼロ金利の世の中で、年10%の利回りは夢のような話だ。5000万円借金してこのマンションを5件買えば年500万円の賃料が入るから、それだけで働かなくても暮らしていける。

不動産コンセプト。住宅。建設。
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

本当に儲かる話ならば、独り占めするはず

これを聞いて、「世の中にこんなウマい話があるのか!」と思ったなら、君のはかなり暗い。経済合理的なひとは、ここで次のように考える。

ほんとうにそんな素晴らしい投資機会があるとしたら、不動産会社の社長はなぜそれを自分で独り占めしないのだろうか。銀行からどんどんお金を借りてワンルームマンションを買いまくれば、年10%の利益は保証されているのだから、たちまち大富豪になるだろう。

その答えは次の2つのどちらかだ。

ひとつは、不動産会社は金儲けの振りをしているが、じつはボランティア団体だというもの。彼らはひとびとの幸福のために、自らの利益を犠牲にしてワンルームマンションを売り歩いているのだ。だったらぼくたちは、この慈愛に溢れた人たちに感謝しなければならない。これは「性善説」だ。

もうひとつの解釈は、不動産営業マンが君に勧めるのは、自分ではぜったいに買いたくないクズ物件だからだ。不動産業界にいるプロの投資家たちが見向きもしないから、甘い言葉でド素人の君に売りつけようとしている。こちらは「性悪説」だ。