「人生を楽しむ」ことは長生きの秘訣
怒り、不安、ストレスといった「負の感情」が、その人の体に悪い影響を与える――。
私たちはこうした心と体の関係について、なんとなく理解をしていると思います。それが明確なデータとなってあらわれたのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災によって避難を余儀なくされた、福島県民の健康調査です。
私は医師としてこの調査にかかわってきました。それでわかったのは、避難した人々は怒り、不安、ストレスの増加がみられたうえで、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病全般が増えたことです。
たとえば肥満。全国的にみると、肥満の割合はここ10年間変化がありません。ところが福島県の避難者では、震災前と震災後の肥満者の割合は、男性で32.8%から42.6%に、女性では30.5%から35.9%と大幅に増加しています。同じ福島県でも、非避難者は震災前と後では男女それぞれ2.9ポイント、1.8ポイント増加しているにすぎません。
こうした負の感情と生活習慣病全般との密接な関係は、福島の避難者に限った話ではありません。
私はこれまで主に怒りをテーマに研究を続けてきました。
私の医師としてのスタートは、心療内科でした。心療内科を訪れる患者さんと接するうちに、怒りを我慢している人が多いということに気づきました。そういう人たちは年齢が若くても血圧が高いという点も気になりました。
そこで文献を調べてみたところ、怒りと高血圧との関係については古くから実証データが発表されてきていました。怒りの感情は、すべての感情の中で最も血圧を上げるのです。
私たちが行った研究でも、同様の結果が出ました。怒りの強い人は、心筋梗塞や脳梗塞など血管が詰まる病気のリスクが、強くない人の2.9倍も高かったのです。
怒りの出し方についても研究が進んでいます。端的にいいますと、怒りを表に出す人よりも、怒りをため込む人のほうが、血圧が上がりやすいということもわかってきました。
怒りを表に出すと一時的には血圧が上がりますが、ストレスを発散したことで爽快感を得られます。それに対して怒りを出さずにため込んでいますと、ストレスを発散できないままで、怒りの感情を忘れることはありません。思い出してはまた怒りを感じる。それを繰り返すことで、ジワジワと血圧が上がるというのが問題です。
怒りは、そもそもは急性的な感情です。ところがうまく発散できずにため込んでしまうと、慢性化してしまうのです。怒りが慢性化すると脳が疲弊し、なにをしても無駄だという虚無感に襲われます。それが進むと、うつを引き起こしてしまいます。